FBIがたるんでいるわけではない

このような犯罪摘発の地域差はなぜ起こるのだろうか。それは犯罪の摘発についてもアメリカが中央政府(連邦政府)と州政府がすみわける連邦主義をとっていることに起因する。

刑事事件となる犯罪の大多数は州法の違反に対して州(そして州の下にある市や郡)が摘発し、起訴していくものである。殺人、強盗、放火、窃盗、暴行、破壊行為など、思い浮かぶ犯罪のほとんどは、州法に対する違反である。

連邦政府が摘発するのは、犯罪行為が州を跨いで行われる犯罪や連邦税詐欺、郵便詐欺などに限られる。

ヘイトクライムのほとんどは警察権がある州単位で対応することになっている。FBIがたるんでいるわけではなく、この犯罪摘発の構造があるため、どうしようもない部分がある。

ヘイトクライムが消えるには時間がかかる

アジア系へのヘイトクライム対策として日本でも話題となった2021年5月に成立した「新型コロナ・ヘイトクライム法(the COVID-19 Hate Crimes Act)」では、コロナウイルス感染が広がる中でのヘイトクライムを調査する担当者を司法省に置くことや、新型コロナに関する差別的な表現を防ぐ指針の策定、警察など法執行機関への研修助成金などが盛り込まれている。

ただ、この内容から想像できるように、ヘイトクライムを抜本的に取り締まる法律ではなく、ヘイトクライムの未然防止や州の摘発を促進する内容でしかない。

反ヘイトの動きは全米で進みつつある。そもそもこの状況を改善させようという人々の大きな願いがあるためだ。アジア系に対するヘイトクラムがこれだけ問題となり、連日のように報じられるようになっている。教育での反差別の仕組み作りも広範である。

ただ、アメリカは地域差を含めて多様だ。ただ、多様である分だけ、ヘイトの対応も遅くなる。残念ながら、この状況は当面、変わりそうになく、アジア系に対するヘイトクライムが消えるには時間がかかる。

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