アメリカではコロナ禍以降、アジア系住民を狙った犯罪が増えている。上智大学の前嶋和弘教授は「以前からあった差別意識が表面化した形だ。アメリカではヘイトクライムの取り締まりには地域性があり、消えるには時間がかかるだろう」という――。
「アジア人への差別をやめて」という標語を書いた段ボールを掲げる人
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コロナ禍で表面化したアジア系住民へのヘイトクライム

アメリカの主要都市で、アジア系住民に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が急激に増えつつある。

ヘイトクライムとは人種、肌の色、宗教、出身国、性、障害など、特定の属性を持つ個人や集団に対する偏見や憎悪に基づく、嫌がらせ、脅迫、暴行、殺人などの犯罪の総称である。ヘイトクライムの場合、犯罪の犠牲となったのがたとえ一人であっても特定の属性のグループ全体に対する憎しみがその根幹にあるため、犯罪の衝撃は極めて大きい。地域社会だけでなく、時には国全体に影響を及ぼす。

人権意識の高まりもあって、アメリカでは社会に「ヘイトクライム」の概念が定着した1980年代から次第に罰則強化に向かっていった。州によって異なるが、ヘイトクライムが認定された場合、社会的な影響に合わせ、通常の犯罪による刑罰より厳しい罰則が加重適用になる。

例えば、禁固1年半程度の罪状の場合、ヘイトクライムが認定された場合、2年から3年半程度に重くなるのが一般的である。

トランプ大統領時代から増加傾向に

アメリカではトランプ前大統領が当選した2016年大統領選挙の前後から社会の分断が顕著になり、ヘイトクライムとみられる犯罪の増加が頻繁に報じられるようになった。

ただ、ここ数年のアジア系の犯罪はかなり執拗しつようかつ悪質なものばかりである。歩いている老人に急に襲い掛かり、何度も殴ったり蹴ったりするケースも頻繁にある。

これは何といっても、新型コロナウイルスが中国・武漢市が発生の起源とされていることが大きい。多くのアメリカ人にとって、アメリカで生まれ育った中国系や韓国系、日系と、中国本土からの人物を見た目で区別することは極めて難しい。「同じアジア人」という感覚だ。