共働きでも里親になれる
里親には、「経済的に困窮していないこと」などの認定基準はあるが、共働きの人でもなることができるし、実子がいても問題ない。厚生労働省によると、2020年3月現在、里親全体における共働き夫婦の割合は43%だ。
また、里親世帯には経済的支援もある。子ども1人当たり月額9万円(2021年度予算)の里親手当のほか、食費、洋服代などの一般生活費として、1人当たり月額5万2130円(乳児の場合は6万110円)、その他、教育費、医療費、入進学支度金なども自治体から支給される。
「テレビで里親の宣伝って見たことがありますか? ないでしょう? もっと里親について広く知ってもらえれば、『それなら私たちもできるんじゃない?』という夫婦が、もっと出てくると思うんだ」と塩崎さんは言う。
「子どもの支援」後回しにしてきた日本
塩崎さんは2014年9月から3年間厚生労働大臣を務めたが、大臣に就任した時、「日本の児童福祉は、浮浪児対策の延長なのだ」と聞いて驚いたそうだ。
「日本の児童福祉法は、昭和22年(1947年)にできた法律で、戦争孤児がガード下や道端で暮らして餓死したり凍死したりするのを防ぎ、施設に収容して保護し、育てることが目的だった。しかし、時代は大きく変わり、1990年ごろになると虐待が増えてくる。これは、世界共通の現象で、工業化が進み核家族化が進むとともに虐待が増えてくると言われている」と言う。
「親からの虐待というのは、子どもにしてみれば一番愛してほしい人からいじめられるわけですから、精神的な発達にも影響します。ものすごく難しい問題であるにも関わらず、日本は専門性を高めたり、支援体制を整備するなどの対策が不十分なままできてしまった」と指摘する。
また、日本は1994年に「子どもの権利条約」を批准したが、当時の日本の国内法には、「子どもの権利」という言葉はどこにも書かれていなかったという。そこで、塩崎さんたちが手掛けたのが2016年に改正された児童福祉法だ。
もともとは、大人目線で書かれていたこの法律に「子どもの権利優先」「子どもの最善の利益優先」「家庭養育優先」という原則を書き込んだ。
家庭で子どもを育てることが難しい場合は、「家庭における養育環境と同様の養育環境」で継続的に養育されるべきだということも条文に書き込んだ。この条文のお陰で、実の親が育てることが難しい場合は、特別養子縁組や里親、それが難しければ、できるだけ家庭に近い環境で子どもを育てられる小規模な施設で育てようということになった。数十人が1つの建物の中で集団生活を送るといった、従来の大型施設は好ましくないということになったのだ。
2018年には、「概ね7年以内(3歳未満は概ね5年以内)に、乳幼児の里親委託率75%以上、概ね10年以内に学童期以降の里親委託率を50%以上」という目標も定められた。
ところが、現状はかなり厳しい。
厚労省によると、2020年度末時点で、施設や里親などに預けられている子どもは約3万3810人。このうち、里親へ預けられているのは7707人で、里親委託率は22.8%にとどまっている。約8割の子どもが、今も児童養護施設や乳児院で暮らしている。