虐待は増加、増えない保護児童数

日本は海外の主な国と比較しても、里親委託率が極端に低い。2018年前後の値ではあるが、オーストラリアの委託率が92.3%、カナダ85.9、アメリカ81.6%、香港でも57%となっており、日本はまだまだ低い。

また、少し前のデータではあるが、イギリスのイースト・アングリア大学のジューン・トバーン名誉教授の2007年の研究によると、児童人口1万人当たりの保護児童数が日本は極端に少ないということが明らかになった。

フランスの児童人口1万人当たりの保護児童数は102人で、主要国の中でトップ。ドイツは74、アメリカは66、イギリスは56だが、日本はたった17人だ。これは、「日本が平和で虐待がない国だから」という理由ではないだろう。

日本の虐待相談対応件数は年々増加しており、2020年度は過去最多の20万5044件。前年度から1万1263件増えた。一方、要保護児童数(里親、乳児院、児童養護施設、児童心理治療施設、児童自立支援施設、母子生活支援施設、自立援助ホームで暮らす子どもの数)は、2019年度で4万3650人だったが、この数は過去25年以上にわたりほぼ横ばいである。

つまり、虐待相談が増えているのにも関わらず、保護する子どもの数は増やせていないといえる。

最近も、虐待されて亡くなった子どものニュースが後をたたない。岡山県で亡くなった5歳の女の子は、鍋の中や墓地で全裸で立たされるなどの虐待を受けていたことが明らかになったし、神奈川県では2019年、当時7歳だった次男の鼻と口をふさぎ、窒息死させた疑いがあるとして、母親が逮捕された。

「児童相談所も把握しているのにこうなってしまう。亡くなれば表に出るが、多くのケースはそうではない。誰にも知られず、虐待を受け続けている子どもはたくさんいるだろう」。塩崎さんは、国や自治体が把握しているケースは、氷山の一角だと見ている。

対応は追いついていない

課題は山積みだ。

例えば、塩崎さんの地元の愛媛県には児童相談所が3つあるが、松山市などを管轄する中央児童相談所が、人口90万人以上を抱える大分、高知、広島、山口の4県境にまたがる広い地域を担当しているという。しかも、里親を担当している職員はたったの1人。担当区域には、移動に5時間ぐらいかかる場所もあり、とても1人で回りきれない。

「(2019年に虐待で亡くなった)栗原心愛さんが住んでいた千葉県野田市を管轄していたのは、柏児童相談所でしたが、この児童相談所は人口135万人のかなり広いエリアを担当していた。そういう地域がたくさんある」。個々の児童相談所がカバーする広さや人口を考えると、足りていないところが多く、行政の対応が追いついていないと塩崎さんは指摘する。