相性が悪い親とは距離を置いたほうがいいのか。脳科学者の中野信子氏は「毒親育ちの呪縛から抜け出す方法がある。毒親の存在を否定するのではなく、自分を育て直すことが大切だ。毎日、花に水をやるように、自分に愛情を向けてみてほしい」という――。

※本稿は、中野信子『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

「毒親」は自分を知るための指標になる

親も、毒親になりたくてなっているわけではないのかもしれない、と理性では理解できても、傷が癒えるわけではありません。また、痛みがなくなるわけでもないでしょう。

中野信子『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ新書)
中野信子『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ新書)

そもそも、自分を傷つけた相手を、親であるからということだけで許せるかどうかといわれれば、かなりの困難があるのではないでしょうか。もちろん外向きには、もう許しています、と言えたとしても、本心からそれを口にするのはかなりの努力が必要でしょう。

毒親、という言葉は、自分の親がそうであったのかなかったのかを判別して、彼らを責めることによって自分の抱えた痛みをいっとき軽くしようとするために使うのではなく、自分の持っている傷がどれほど深く、それを癒していくためには何が必要なのかを知るために使うべきです。

そもそも、何が毒で、何が毒ではなかったのか、はっきりとわかるような行為もありますが、判別するのが難しいようなものもあります。ひとえに、その子と、親との関係性によって決まるものなのです。

言ってしまえばつまり、毒親というのは、そういう親のことそのものを指すというよりも、その子と親との相性の悪さを示す概念であり、相性の悪い親のもとで育ってしまった「毒親育ち」の子どもたちの、現在の状態がどれほどのものかを問う指標として有効だといえるでしょう。

自分の傷の深さを見つめ、癒すこと

毒親、という言葉にもし反応して、自分もこの心の裡の苦しさを吐露したい、という気持ちになったのなら、その気持ちの強さが、毒親、という指標によって測ることのできる傷の深さです。親たちをむやみやたらと攻撃するために『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』を書いたのではありません。