親は子供のために何でもしてあげたいと願う。だが、そうした愛情は「毒親」を生む原因にもなる。脳科学者の中野信子氏は「仲のいい親子は美しく、ほほえましく見える。しかし、そこには重大な問題が潜んでいることがある」という――。

※本稿は、中野信子『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

母と娘の友情
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毒親は、自身の記憶の中に生き続ける

人間の悩みの多くの部分は、人間関係によって占められるといってもいいかもしれません。ただ、距離を近くしておく何らかの必要があるのでなければ、その人を遠ざけて近寄らないようにすればいいことです。どちらかの寿命がいつか時間切れになるまで問題を回避し続けていれば、なんとかやり過ごすことは可能でしょう。

しかし、親という特別な関係にある存在との関わりについては、そうもいかない事情があります。

まず、すっぱりと切ってしまうことが容易ではありません。物理的に会わない、遠くへ行ってしまうなど、直接の関係を断ち切ることができたとしても、自分の中でささやき続ける親のイメージが消えることはありません。親がこの世を去ってからもなお、自身の記憶の中に、親が生き続けてしまうのです。

何かをしようとすれば、かならず、親に言われた何事かがよみがえる、親から受けた行為を思い出してしまう、親の顔が目に浮かんでしまう……。人間はどうしても親(養育者)から受けた教育が基礎となって動いているわけですから、その都度、きっかけさえあればその人のことが思い出されるのは当然のことです。

そこにわだかまりがあると、これが見えない鎖となってその人の行動を縛ってしまう。息苦しさや、癒されない痛みがそこから発している場合も少なくないのです。毒親のことを取り上げたドラマや漫画が多くの人の支持を得る背景には、こうした事情が一因としてあるのでしょう。