毒親の価値観に支配される脳科学的な理由
子どもは主たる養育者であった人(現代の日本では多くの場合は母親が担っているので、必ずしも母とは限らないのですが、便宜的に母と書くことにしましょう)の価値観が世界を支配している法則だと認識して育ちます。
その世界しか知らないのだから当然なのですが、子どもにとっては母の言動こそが世界と関わるための方法のすべて、という時代を人格形成上重要な時期に何年か過ごすことになります。この時代に、子どもは「内的作業モデル」を身に付けます。
内的作業モデルというのは、他者との関係性の規範となる内的なひな形のことで、ごく若年の時期に形成されると考えられています。これは、他者を理解しようとしたり、自分が何を話そうか、どう行動しようか決めようとするときに、無意識的に使われるテンプレートのようなもので、乳幼児期に経験した母子での愛着関係の中でつくられます。
具体的にどのように獲得されるのか、まだ研究の途上であって詳細は明らかではないのですが、人間が人間の中で生きていくためには極めて重要なものであって、このモデルは一度決まったら、自分で変えようとしない限りはほとんど一生、そのままで過ごすことになります。
親の圧が強すぎると、子どもへの影響はさらに深刻
母があまりにも極端に一般常識から逸脱した価値観を持った人物であったとしたら、子どもにとってはそれが世界のすべてですから、やはり極端な内的作業モデルを持つことになります。
自分があたりまえだと思っていた価値観と世間一般の価値観はもしかしたら違うかもしれない、とやがて子どもが気づくのは、自分のことを客観的に見るための機能を持った前頭前野が発達を始める思春期です。この時代に自分の価値観と他とを比較して、母から受けついだ自分の価値観は、世間一般とはこれくらいずれていそうだ、ということを見積り、母と異なる主張をし始めたりするのです。
母親の中には「どうしてそんなふうになっちゃったの?」「もっと小さい頃はかわいかったのに」と漏らす人もいます。一体のように感じられていた母子の世界が分離するのは正常なことなのですが、これに耐えられない母も多くいます。
このとき、子がうまく自分の感じた違和感を言語化して説得力のある主張をできなかったり、母を納得させることに失敗したりすると、子は暴力という手段に訴える場合があります。いわゆる反抗期と呼ばれる現象です。