労働者に大きな影響を及ぼす産業構造の変化

次にグリーン化が労働に与える影響を考えることにしましょう。みなさんは「グリーン・ジョブ」という言葉を聞いたことはありますか?

グリーン・ジョブはILOによって提唱されたもので、環境に対する影響を持続可能な水準まで減じる経済的に存立可能な雇用と定義されます。具体的には、①生態系と種の多様性の推進と回復、②消費するエネルギー・材料・資源の削減、③脱炭素経済の推進、④廃棄物と公害の発生回避または発生極小化を支援するような雇用が含まれます。

ここでは、単純に脱炭素社会を推進する雇用のことを、グリーン・ジョブ、そして、脱炭素社会を推進するセクターをグリーン・セクターと呼ぶことにします。なお、非グリーンなジョブやセクターは、ブラウン・ジョブ、ブラウン・セクターと呼ばれています。

脱炭素化は経済構造を大きく変え、雇用をブラウン・ジョブからグリーン・ジョブへと移行させると考えられます。雇用は生産の派生需要であり、労働市場を取り巻く経済・社会環境が変化すれば、それに伴い雇用のあり方は変化します。脱炭素化は需要と供給の両面から経済の構造を大きく変えるため、結果として労働にも大きな影響を及ぼすのです。

環境に配慮した商品の需要が高まる

脱炭素化が経済の生産面に大きな影響を与えることは明らかです。

これは自動車産業を考えるとわかりやすいかと思います。世界が脱炭素社会実現に向けて動く中で、自動車産業もこれまでのガソリン車からCO2を排出しない電気自動車にその生産をシフトさせています。

2014年4月24日、横浜で電気自動車リーフが充電中
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電気自動車はガソリン車と比較して部品点数が少なく、また、使用される部品も異なります。ガソリン車から電気自動車へのシフトは、ガソリン車搭載の部品を製造している自動車部品メーカーに大きな打撃を与えると同時に、電気自動車の要となる電池やモーターなどの関連企業を新たに誕生させますが、こうした産業構造の大きな変化に伴い、既存の雇用が失われる一方で、新たな雇用が生み出されることになります。

脱炭素は需要サイドにも影響を与えます。

人々が環境に配慮するようになれば、それに対応した商品への需要が高まります。また、政府が脱炭素化を推進する政策をとれば、それにより地球環境に配慮している商品・サービスの価格は、そうでない商品・サービスの価格に比べて低下する可能性があります。

グリーンな商品・サービスの相対価格が下がれば、人々はそれらを購入するようになり、結果、ますますグリーンな商品・サービスへの需要が高まります。こうした消費者の需要パターンの変化は、ブラウン・セクターからグリーン・セクターへの生産のシフトを引き起こします。