男性の価値観に合わないところに成長の源泉がある
たとえ単年度の売上目標を達成しても、プロセスに無理があれば、成果は長つづきしない。問題だらけのプロセスを強いれば、優秀な人材ほど逃げ出すだろう。組織としては長期的な成長が見込めない。男性の価値観で動く組織の弱点は、積極的な女性の登用によってカバーできる。高浜社長がいう補完性だ。
裏返せば、男性の価値観に合わないところに成長の源泉がある。
「男性がシンプルに決定したいところへ、女性が細部にこだわって問題を指摘する。男性はやりにくくなる。その不満が『この仕事は女性に向かない』『このポジションは向かない』といった声につながります。トップが説明しつづけると同時に、組織のカルチャーを改めないと、いつまでも変わらないと思います」(長尾さん)
男性が女性より上であるべきだと考えたことはない
土屋では、経営課題を解決するため、7つの委員会を設置している。そのうち女性が委員長を務めているのは「ジェンダーイクオリティ委員会」「ハラスメント・虐待防止委員会」「リスクマネジメント委員会」「防災委員会」の4つ。男性は「イノベーション推進委員会」「高齢者地域生活推進委員会」「知的障害者地域生活推進委員会」の3つだ。
高浜社長から見れば、スピードや量を最優先する男性的な組織は盲点だらけだ。繊細な視点や思考が正しい経営判断に必要だという認識は、土屋を設立するずっと前からあった。
高浜社長は30代の頃から、市民運動に参加してきた。行政に重度障害者の公的介護を求める組合の事務局員を務め、ホームレス支援のNGO活動なども経験した。
「市民運動のリーダーは、男性より女性のほうが圧倒的に多い。女性リーダーたちに教えを請い、叱られながら活動していました。男性がマイノリティの世界です。だから、男性が女性より上であるべきだと考えたことはないですね」
日本の組織しか知らずに出世した男性たちは、自分がマイノリティになった経験がほとんどない。海外駐在経験があり、欧米社会でマイノリティの立場を経験した経営者たちは、ダイバーシティを積極的に進めることが多い。高浜社長は市民運動を通して、ダイバーシティの重要性を知った。
「男性だけで事業を進めるのは危なくてしょうがないと心底思います。女性がいることでリスクマネジメントは高まる。男性文化はただ“男性がやりやすい”というだけで、その先にはカタストロフィ(悲劇的な結末)が待っています。私自身も、自分だけで考えたことに突っ走ると、とんでもないことになると自覚しています。だから、大切なことを決めるときは、女性役員たちの意見を聞く。自分の限界を学ぶということです」
自分の限界を知れば、意思決定では補完性が必要になる。男性文化の限界を見極めることは出発点の1つになるだろう。