43都道府県で障害者や高齢者の在宅ケアサービスを展開する土屋。創業から1年半で従業員は1400人を超え、事業は6つの領域に拡大した。同社を率いる高浜敏之社長は介護の現場にいた30代の頃、アルコール依存症と診断され、リハビリのため生活保護を受けた期間がある。苦労人の社長が女性管理職の登用にこだわる理由とは――。

取締役は男女同数にしたい

土屋の取締役は高浜社長も含めて10人。そのうち3人が女性だ。

高浜社長は、取締役は男女同数にしたいという。

土屋 高浜敏之社長
土屋 高浜敏之社長(写真提供=土屋)

「当社は社員と登録ヘルパーさんを合わせれば、従業員の約6割が女性です。しかし、女性の管理職は少ない。オフィスマネジャー、エリアマネジャー、執行役員と階層が上がるにつれて、女性の比率は下がる傾向にある。ジェンダーイクオリティ(男女格差の是正)の必要性を感じています」

各階層の男女比は、オウンドメディアで発信してきた。地区ごとに女性管理職の会議を開き、誰もが働きやすい環境づくりの施策を提言している。

「ジェンダー平等は、SDGsでは17ある目標の1つですし、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードで追求すべき価値として示されている。企業活動の倫理性を重視するエシカル経営から見ても、避けて通れない課題です」(高浜社長)

とくにソーシャルビジネスでは、公正な運営や時代に即した経営が企業イメージに影響する。「ホームケア土屋」のブランドを維持するうえでも、ジェンダーイクオリティは欠かせない。

女性にまずポジションを与え、支障があれば解決法を考える

女性取締役の1人で社長室室長の長尾公子さんは、自社の取り組みについてこう語る。

「女性にまずポジションを与えることを考えます。昇進して何か支障が出れば、ちゃんとサポートして問題を解決する。安心感がもてる運営方法だと思います。ただ、本人に自信がなくて、管理職になるのをためらうことがある。抵抗感は丁寧に解きほぐさないといけません」

管理職への昇進を打診されて、「私で大丈夫ですか?」と不安や遠慮から躊躇する女性は多い。そこでかける言葉は重要だ。たとえば「あなたはこの点が素晴らしい。ここは得意じゃないかもしれないけど、あなたはこういうアプローチができるでしょ。あなたのままでいいから頑張ってね」と、本人が納得できるように話す。

「昇進後のフォローとサポートも含め、けっして乱暴に進めないように心がけています」

長尾さんの自宅は東京にあり、ほぼ100%リモートで勤務している。取締役として総務、人事、法務、マーケティングなど管理部門を取りまとめる立場だ。4歳と1歳の母でもあり、女性が働きやすくキャリアを伸ばせる環境の整備に努めてきた。

「私も出産で一定期間のお休みをいただき、いまも子育てや家事で18時以降は働くのが厳しい状況です。そういった事情を言いやすい環境を整えることで、自分は会社にちゃんと貢献できていると肯定感を深めてほしいですね」