盛田の国際人としての名声に傷がついた
この本がアメリカでこれほど評判になったのは、盛田の知名度によるところが大きい。ソニー会長の盛田がアメリカで最も有名で最も好感を持たれている日本人ビジネスマンであるのに対し、石原はほとんど無名の存在だからだ。事実、盛田が担当した章はほとんど攻撃されていない。だがアメリカ人の多くは、盛田が石原の見解に同意するがゆえにその「名声を貸した」のだと受けとったきらいがある。
盛田は最近、ワシントン・ポストのコラムニストに対し、この本の出版を「後悔している」と語り、石原を「極端だ」と評した。また同書をアメリカで出版する意図はないとも語ったが、それはかえって国の内外で二つの顔を使い分けている印象を与えることになった。
エズラ・ヴォ―ゲル・ハーバード大学教授は、「国際人すぎる」という国内のイメージを打ち消そうとする盛田の勇み足だったのではないかと言う。これまで日米間のよき架け橋とみなされてきた盛田が今や問題の一部となったようだと、ロサンゼルス・タイムスは書いた。
盛田にとっては最悪のタイミングだった。ソニーがコロンビア映画社を買収し、全米に衝撃を与えたばかりだからだ。盛田は、問題の著書の公式な英訳出版を禁じたという。
ワシントンの対日強硬派は、格好の攻撃材料を見つけた。米政界で唯一人、海賊版を配布したことを認めたメル・レービン下院議員は、日本との競争が予想される高品位テレビ(HDTV)の生産に補助を出すよう要求している。
一部の議員たちはこの本を引き合いに出して、外国からの防衛関連産業への投資とソニーによるコロンビア買収を強く批判している。
「日本が、半導体をソ連に売ってアメリカに売らないと言えば……軍事力のバランスはがらりと変わる」とする石原の見解は、半導体の供給を外国に大幅に依存すべきでないというアメリカ国防総省の警告を裏づけているように思える。
もっともワシントンの貿易タカ派でさえ、アメリカの半導体生産能力が日本より劣っているとは考えていない。「石原はアメリカの軍需産業基盤を過小評価している」と、レビーンは語っている。