「人種偏見」と指摘され憤まんやるかたない米国人

石原発言のなかでアメリカ人が最もいらだちを覚えるのは、「日米間の問題には……人種偏見がある」という主張だ。その証拠にアメリカは日本に原爆を落としたではないか、と石原は言う。

人種偏見は、アメリカで深刻な社会悪とみなされている。外国人を受け入れないことで知られる日本人からこんな非難を浴びせられたアメリカ人は、憤まんやる方ないのだ。

「私が日本で受けた差別に比べれば、日本人が受けている差別などとるに足りないだろう」と、投資家のT・ブーン・ピケンズは語る。彼は小糸製作所の株を買い占め、役員を派遣する権利を得ようとしている。

人種差別だとの非難は、アメリカの対日批判をことさら軽視するための方便だとみる向きもある。「深刻な貿易摩擦が起きているのに、人種偏見の一言で片づけるのはまちがっている」と、レビーンは言う。

ヴォーゲル教授も、この見方を支持している。「人種偏見を問題にすれば、自分たちは被害者で外国人は侵略者だと考えることができる。日本人は、こうした被害者意識に陥る傾向が強い」

容赦ないアメリカ批判にもかかわらず、『「NO」と言える日本』にもアメリカ人のファンはいる。「日本人は単なる技術の模徹者ではないし、私たちはそのことを認める必要がある……この本は人々の目を覚まさせるかもしれない」と、コンピュータ業界誌の発行人ナンシー・マグーンは語る。

実際、アメリカ人は石原が言うような狭量な国民とは程違い。あらゆる意見に公平に耳を傾けることが、アメリカ人の美徳なのだ。

なかには、この本はアメリカ人の助言に従っただけだとみる人もいる。マニュファクチャラース・ハノーバー・トラスト銀行のロバート・シャープ副頭取は言う。「われわれは、日本人にこう言ってきた。控えめすぎるのはよくない。何かよからぬことをたくらんでいるのではないかと疑惑を招くだけだ、と」

とはいえ『「NO」と言える日本」のようなギラギラした本が日本からあと数冊出れば、アメリカ人は日本人が遠慮がちだった昔を懐かしむようになるかもしれない。(次ページに石原氏インタビュー)