【中学受験しない派多数エリアで受験する人々の悩み】

4.「子供らしさを奪う虐待行為」と親族が反対する

典型的な「地方受験あるある」だが、周囲に中学受験体験者が少ないこともあり、親族が中学受験に良いイメージを持っていないケースが少なくない。よって、夫婦の受験への意見が一致しているものの、祖父母などから強硬に反対されることは多々ある。

今年、中部の地方都市で受験を経験したD君の母親であるE子さん(41)はこう言う。

「受験生活で何が一番つらかったかと聞かれたら、親族の反対です。主人や義母は賛成でしたが、私の親や姉がすごく反対したんです。普通の塾から中学受験塾に転塾させる際には、母や姉から何時間も電話で『行くな! そんなかわいそうなことをさせるな! 1カ月は塾を休んでD君の本当の気持ちを聞くべきだ!』と言われました。

私は『受験や転塾はDの希望でもあること。親が無理やりやらせているわけではない』と何度も言いましたが、信じてもらえず……。母に息子の塾の送りを頼んだ際は『おばあちゃんにだけは本当のことを言ってごらん。本当は嫌なんでしょう?』と聞かれたと息子が教えてくれて、涙が出るほど悲しかったです」

結局、E子さんは「絶対、中学受験させるから!」と母と姉の反対を押し切った。D君は見事、先月、その県で1番の難関中学に合格。心の中でドヤ顔をして、「受かりました」と報告すると、祖母は「途中あんなに反対してごめんね」と平謝りだったそうだ。

中学受験を「子供らしさを奪う虐待行為」と捉える人は、直接の体験がないために「子供にとって勉強は嫌なものに違いない」という思い込みで言っているケースが多い。

通常、中学受験に歩を進める親はわが子への教育方針を熟慮の上で決定している。自分の中でハムレット並に「やるべきか、やらざるべきか」という問いに答えを出した上での参戦のはずであるから、一家が出した答えには自信を持つべきだろう。

しかし、「やめたほうがいい」と強硬に訴える人の考え方を変えるのは至難の業だ。この場合、理解を得ることは潔く断念する。そこにエネルギーと時間を費やしてもムダだからだ。

ただし、親は、わが子にとって中学受験が過剰な負担とプレッシャーになっていないか、という自問自答を常にする必要があることは言うまでもない。

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5.金銭的負担と体力的問題が膨大

そもそも、通える範囲に中高一貫校がないという土地もある。そうなると、遠方の学校も視野に入れることになる。コロナ禍で最近はさすがに少なくなってきたが、コロナ前は「逆単身赴任」とも呼べる方法で意中の中学を目指す家庭も決して珍しくはなかった。

つまり、父親を地元に残して母子で上京。学校近くに住まいを借りるという方法だ。これ以外にも、寮完備の学校に入学させるという家庭もある。

この場合、入学後は、自宅通学ではないので、子供の寮費+食費という金額が上乗せとなる。

入試日も気苦労は絶えない。多くの場合、受験校は遠方にあるので、入試日にはその学校が指定する会場に出向かなければならないのだ。

今年、福岡会場で行われた地方トップ校の入試に向かった母親F子さん(45)はコロナ禍ゆえの苦労をしていた。母子でホテル前泊した際、感染を恐れるあまり、卓上電気コンロとフライパン、携帯炊飯器、食材を持参。朝の5時からホテルの部屋でお弁当を作ったそうだ。あまりの荷物の重さに疲労困憊こんぱい。しかも、結果は不合格で疲れが倍増したという。

入試当日の交通費、宿泊代もバカにはならないが、その前に学校説明会に参加をして、わが子に合うかどうかの確認をしに、何カ所かの学校見学には出向くので、県境を大幅に越えた移動は必須になろう。自宅通学予定者と比べると、お金も体力も必要になる。

全国的に見れば中学受験をしない家庭が圧倒的多数だ。そのため、少数派はなにかと詮索されたり、批判の的にされたりする。「中学受験」に舵を切っても、そうした圧力や合格のプレッシャーに押しつぶされ、孤立し、受験という航海で方向を見失ってしまう残念なケースもある。

しかし、受験勉強中にわが子が身に付けた知識は誰にも奪われない宝物になることも、また事実だ。大事なのは、親子で決めた「この道!」を一歩ずつ進むこと。

今年もそれぞれの家庭で山あり谷ありの「中学受験物語」が完結した頃だ。その有形無形の苦労をねぎらいつつ、中学受験生全員の新たなる門出を祝したいと思っている。

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