母親の離婚
関東地方に住む20代後半の緑川由芽さん(仮名)は、建設会社に務める当時23歳の父親と、同年齢で同じ建設会社の事務員だった母親との間に生まれた。
父親は酒癖が悪く、母親はいつもイライラし、夫婦喧嘩が絶えない。殴り合いに発展することも多く、家の壁はボロボロで、あちこち血の痕がついていた。
ただ、そんな父親でも、幼い緑川さんをお風呂に入れることだけは欠かさなかった。母親は教育熱心で、緑川さんを2~3歳から幼児教室に通わせた。幼稚園に入ると、緑川さんに夜中まで勉強させ、期待に応えられない時はひどく怒られたものの、普段はやさしかった。
大きな転機が訪れたのは、緑川さんが8歳の頃。両親が離婚したのだ。父親の酒癖・女癖やギャンブルにハマって母親の実家に多額の借金をしたことがその理由だった。
緑川さんの親権は母親が持つことになり、31歳の母親は8歳(小3)の緑川さんを連れて、愛人の男性のところへ移り住んだ。男性は、母親が夫の借金に悩み、緑川さんの小学校の入学準備ができずに困っていたところ、力になってくれたという。
会社経営をしていた男性は44歳で既婚者だが、妻との結婚生活は破綻していた。妻が離婚を受け入れないため、緑川さんの母親は事実婚のような形で同居に踏み切ったのだ。
それから約3カ月後、母親に妊娠が発覚。妊娠してからというもの、母親は常にイライラし、「つわりがつらくて動けない」と、ほとんどの家事を放棄。そのしわ寄せは継父(便宜上こう表現する)に行き、食事は継父が買ってきた総菜ばかりになる。
母親が離婚してから1年ほど経った2月頃、緑川さんが学校から帰ってくると、玄関に鍵がかかっていた。鍵を持たせてもらっていない緑川さんは、家の前にある公園で遊びながら、母親か継父の帰りを待った。
17時をまわり、あたりが暗くなると、子どもたちは帰宅していく。緑川さんは家の前に座り込んだ。真冬の2月の夜、緑川さんは冷たい空気の中でガクガク震えた。次第に眠気に襲われ、何度も船を漕いでは寒さで目覚めた。
22時頃、ようやく母親と継父が揃って帰宅。母親は、「あら、いたの?」と言うだけで、悪びれる様子は全くない。2人はどうやら、生まれてくる子のために、ベビー用品を買い揃えに出かけていたようだった。