「異性にモテる人」はどんなテクニックを使っているのか。アメリカのある音楽ライターは、ナンパのテクニックを磨きあげることで、2000年代はじめに「世界でもっとも有名な女性」となっていた歌手のブリトニー・スピアーズから連絡先を聞き出すことに成功している。彼が使ったワザとはどんなものだったのか。作家の橘玲氏が紹介する――。

※本稿は、橘玲『裏道を行け ディストピア世界をHACKする』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

2002年10月1日、歌手のブリトニー・スピアーズ
写真=dpa/時事通信フォト
2002年10月1日、歌手のブリトニー・スピアーズ

自由恋愛の時代にモテる秘訣

1970年にエリック・ウェバーが“How to Pick up Girls!(女の子をピックアップする方法)”を出版し、Pickup(ナンパ)という言葉を定着させた(※1)

それから30年後、30代前半の音楽ライターであるニール・ストラウスはこの神話的人物に会いにいった。ウェバーは広告のクリエイターとして成功し、ナンパ本を書いた頃に知り合った女性と結婚して、2人の娘のいる家庭を築いていた。

ウェバーがナンパ術を会得しようとした背景には、60年代アメリカの大きな文化的変化があった。

それまでは、若者たちは教会の集まりのような地域のコミュニティで相手を見つけ、結婚していた。ところが60年代になると、大学進学や就職で親元を離れ、都会で一人暮らしをするようになる。女性たちはピルを飲みはじめ、カウンターカルチャーやヒッピー・ムーブメントが社会を揺るがせ、カジュアルセックスが当たり前になった。

このライフスタイルの変化によって自由恋愛の時代が到来し、都会の若い男たちは、独身者用のバーやパーティ会場で女性と出会い、会話し、恋愛関係をつくらなければならなくなったが、誰もその方法を教えてくれなかった。

橘玲『裏道を行け ディストピア世界をHACKする』(講談社現代新書)
橘玲『裏道を行け ディストピア世界をHACKする』(講談社現代新書)

そんなときウェバーは、一緒にコピーライターの見習いをしていた友人が、公園で魅力的な女性に声をかけ、やすやすと金曜のディナーの約束を取りつけるのを見た(友人はその夜に処女の彼女とセックスまでしていた)。

見ず知らずの女性を和ませる友人の天性の会話力に驚いたウェバーは、自分も同じことができるようになりたいと思った。そして、「スチュワーデス、モデル、タレント、OL、秘書、編集者、学生」など「独身の可愛い、ギャルたち」にインタビューして、彼女たちが男に何を求めているかを語ってもらった。

ウェバーが発見したのは、「女の子は、声をかけられるのを、いまかいまかと待っている」ことだった。

多くの女の子は、いつも新しい男性との出会いを求めている

ナンパについてボニーは、「どんな女の子だって喜んじゃうわ。当然じゃない」といい、リンダは「あったりまえよ。ステキな男のコと知り合う絶好のチャンスじゃない。だいいち、いちばんスマートなきっかけだわ」とこたえた。

いまなら違和感があるかもしれないが、1960年代末のアメリカでは、都会で一人暮らしをする女性たちもパートナーと出会う機会を積極的に求めていたのだ。

ウェバーは、どれほど幸福そうに見えても、女の子たちが満たされない思いを抱いていることに驚いた。半世紀以上前の「魅力的な女性」の言葉は、現代とまったく変わらないだろう。

私はいつも淋しいわ。女の子って、みんなそうじゃないかしら。私たちはみんな孤独でしかも退屈しているのよ。いつも不安定な人間関係に囚われて、疲れてもいるし。楽しい人間関係が生まれたらうれしいわ。私は望まれている、とか、愛されているとか思いたいのよ。だからこそ多くの女の子は、いつも新しい男性との出会いを求めているのよ。

こうしてウェバーは、「自分に自信がなく、愛されたいと思っている等身大の女の子たち」が望むような男になることが、モテる秘訣だと説いたのだ。