その「能力を伸ばす言葉」として有効なのが「ほめる」ことである。コーチング理論に基づいた「ほめて伸ばす」教育法は、知識として浸透はしているものの、実践面はまだまだといっていい。それというのも、指導する側の「ほめるだけで人は本当に伸びるのか」という疑念が拭いきれないからだろう。
その考え方はあながち間違いではない。それをはっきりさせるためにも、ここで一度、ほめる効用と叱る効用を整理してみよう。
「車に例えるなら『ほめる』はアクセル、『叱る』はブレーキ。違う方向へ進もうとするのを矯正するのが『叱り』です。ブレーキを踏んだままでは車が前に進まないのと同じで、基本は『ほめる』で、『叱る』はときどきでいい。さらに叱るときは『一番絞り』にしたほうが効果的です」
つまり「改善点は一つに絞り込め」ということだ。複数の行動を同時に改善するのは誰にとっても難しい。だから優先度の高い一つを厳選して指導する。それが達成されたら、また次の目標設定を行えばいい。
「部下を変えるといっても、トマトにスイカになれというのは無理。トマトのままでいいからしっかり伸びて花を咲かせ、立派な実をつけてほしいじゃないですか。
それを『あれもダメ、これもできてない。何度言ったらわかるんだ!』では、伸びかけた芽を踏みつけるのと同じ。『企画全体の趣旨はいいね。文章もOK。あとはこの部分を再考してみて』という具合に、ほめ言葉を交えて部下の中にある強みと可能性を引き出すことを意識してみてください」
いかがだろう? 新時代に合った「叱る」イメージはつかめただろうか。ポイントが頭に入ったらもう一度息を深く吐いて深呼吸し、リラックスした状態で部下の行動に目を向けてみよう。そうすれば今まで見落としていた部下の頼もしい眼差しに気づくに違いない。
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