ナイキが今秋、最新の厚底シューズを発売した。再生原材料やリサイクル原料を使った“サステナブル”なシューズだ。スポーツライターの酒井政人さんは「地球環境を意識したコンセプトに共鳴する消費者もいますが、3万8500円と高額。ここ20年、年収がほとんど上がらず、韓国よりも低い日本人には手が届きにくいかもしれない」という――。
ヴィンテージ風の味わい
写真提供=ナイキ
ヴィンテージ風の味わい

ナイキの最新厚底シューズが3万8500円もするワケ

エコバッグ、マイボトル、オーガニック商品、エコカー、フェアトレード商品……。「SDGs」の合言葉のもと、生活のなかにサステナブルなアイテムが増えている。

スポーツ界でもそうした世界的潮流に合わせ、ナイキがリーダーシップを発揮している。今秋に発売した「エア ズーム アルファフライ ネクスト ネイチャー」(以下、ネイチャー)は、マラソン界を席巻している厚底シューズの最上位モデルである「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」(以下、アルファフライ)のサステナブル版となる。

その価格を見て、目を見開く人も多いだろう。もともとアルファフライは3万3000円と高額だったが、ネイチャーは3万8500円(いずれも税込)とさらに上をいく。

ある大手スポーツショップのシューズ売り場の担当者は「+5500円となるので、日本ではそれほど多くの人には受け入れられないかもしれませんね」と話した。

通常販売では“最高価格シューズ”となるネイチャーとはどのような商品なのだろうか。

「ネイチャー」はヴィンテージ風なのに最速シューズ

以前から、「炭素と廃棄物排出ゼロ」を掲げてきたナイキはネイチャーに“特別な思い”を込めた。東京五輪で金メダルを獲得したエリウド・キプチョゲ(ケニア)がかつてマラソン2時間切り(非公式記録)した際に履いたアルファフライをナイキ史上最もサステナビリティ思考が高いものに仕上げたのだ。

シューズを製造過程で残った素材は通常なら廃棄される。だが、その切れ端を集めて、再加工することで大幅にゴミを減らすことができる。ネイチャーは重量比にして50%以上のリサイクル素材を活用している。カーボンファイバーは再生原材料率50%以上。外観のミッドソールには最低でも70%のリサイクル原料が使われている。そのためソールはゴツゴツ感があり、全体的にヴィンテージ風の味わいだ。

それでいてオリジナルモデルのパフォーマンスを損なうことのないパワーを秘めている。実際に履いてみると、アルファフライと遜色はない。抜群のクッション性と、力強い反発力を体験できる。ただアルファフライより50gほど重い。アスリートによる試用テストで640km以上の走行を記録しており、耐久性は十分にある。レースはアルファフライ、トレーニングはネイチャー、という使い分けになるかもしれない。