強調したいことがあります。それは慢性腰痛治療は、痛みの軽減は最終目標の一つであり、第1目標ではないということです。痛みのない状態にすることは難しいのが現実です。よって、患者さんの生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)の向上に第1目標を置くことが重要になります。

もし近所の整形外科医がダメな医者で、治療の入り口を間違えると遠回りをしてしまうことがあります。正しい治療に導くことはできません。永遠に治らないこともあります。そのため慢性痛に詳しい専門家と出会うことも対策の上で非常に重要になるのです。

腰痛ウォッチのススメ

腰痛対策は、健康で長生きするためにも欠かせません。皆さんには、ご自身で「腰痛ウォッチ」をしてほしいと思います。医者任せにせず、腰痛を観察するメリットは多くあります。

前々回の記事で紹介したように、腰痛の裏に隠された重大な病気を見逃すリスクを減らすことができます。主治医に的確な報告ができ、痛みの真の原因を最短距離で突き止められることにもつながります。好きなスポーツを楽しめ、老後の寝たきりを予防し、要介護になって施設で何年も暮らすリスクを減らすことができます。

私は患者さんに「今からでも遅くはありません。よくご自身の腰痛を観察して、何でもいいですから心当たりを私に教えてください。そこに大きなヒントが潜んでいることが多いのです」と伝えています。

自身の腰痛をしっかりと観察すること。それが健康で長生きするためには欠かせません。

次回は、腰痛番外編として、尿漏れや子宮脱など、放置しては恐ろしいことになる骨盤底筋群の鍛え方について解説します。

(詳しく知りたい方はこちら)
・慢性痛に関する医療者(患者・家族)向けYouTubeチャンネル「慢性の痛み講座 北原先生の痛み塾」
第29回:慢性痛と検査
*MRIから腰部脊柱管狭窄症を指摘され、それが腰痛の原因だ、と説明される患者さんがいます。慢性痛における画像診断の位置づけについてお話ししています。
第57回:慢性痛講座 神経痛概論
第58回:神経痛概論② 神経痛の診断基準ほか
第59回:神経痛各論 坐骨神経痛ほか
*腰痛の原因として、坐骨神経痛や腰部脊柱管狭窄症という病名をつけられる人が結構います。そのような、「神経痛」の診断がしっかり行われていないことについて、指摘しています。
・慢性痛についての総合的情報サイト「&慢性痛 知っておきたい慢性痛のホント
*私が一般の方向けに総合監修しています。動画「あるペインの少女クララ」は必見です。

(注1)本稿での解説は、世界最高峰の痛みの研究組織、米国ワシントン州立ワシントン大学集学的痛み治療センターでの5年間の留学時代に習得し、日本帰国後に臨床に応用し多くの症例を積み重ねたうえで多少改変した、痛みの専門医として有効性が高いと感じる個人的見解、私論であります。意見には個人差がありますので、あくまでも主治医の先生と相談のうえ、どの治療を選択するかは自己責任としてくださいますよう、お願い申し上げます。
(注2)私の在籍する横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科では、現在、神奈川県内の患者さんのみ受け付けています。全国各地からのお問い合わせは
「慢性の痛み政策ホームページ」の全国の集学的痛みセンターの一覧をご参照ください▼
https://paincenter.jp/about/
(注3)厚生労働省「からだの痛み相談支援事業」の電話相談窓口はこちらです▼
https://itami-net.or.jp/consultation

(聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)
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