EV販売数が増えるほど排出権の取引額も増えていく
CO2排出権取引が活発になった背景には、2015年のパリ協定があります。この協定では、世界全体の長期目標として、CO2など温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」が提唱されました。これを受けて、自動車メーカーにはCO2排出量の厳しい規制が課せられています。
しかし、電気自動車よりもガソリン車のほうが航続距離が長いことや、充電スポットがまだ十分ではないこと、価格がガソリン車よりも高額なことなどから、ガソリン車の人気は未だ根強いものとなっています。
したがって、ガソリン車を大量に販売しなければいけない自動車メーカーは、どうしてもCO2排出規制で設けられた基準を超えてしまうのです。
しかし、テスラは電気自動車を中心に販売しているため、CO2を排出しません。そのため、CO2排出権の枠が多く残っており、その枠をほかの自動車メーカーに販売しています。
こうして、テスラはCO2排出権の販売収入を得ているわけです。先ほど紹介したように、このCO2排出権は自動車の販売台数に応じて付与されます。したがって、電気自動車の販売が好調なテスラは、販売台数の増加に合わせて排出権の取引額も増えていくのです。
排出権ビジネスにはデメリットもある
排出権の需要は高いので、2020年には約15億ドルという前年比で3倍近い排出権収入を計上しました。
このように大きな額の排出権収入を計上したテスラですが、その影響は財務数値に表れています。
テスラの最終利益を過去3年分確認すると、こちらも2020年に7億ドルの黒字を計上していました。ここで、先ほどご紹介した排出権収入15億ドルを思い出してください。排出権収入は、厳密に言えばテスラの本業である「電気自動車の製造・販売」とは関係ありません。もし、この15億ドルがなかったとしたら、2020年の最終利益は赤字だった可能性があります。
つまり、本業である自動車販売の売上を伸ばしていくことができなければ、安定して黒字化していくことはできないのです。
2021年上半期現在、世界のEV販売台数が前年同期比160%増の260万台になるなど、多くの自動車メーカーは、電気自動車の製造に乗り出しています。もし今後も、電気自動車の販売が増えていけば、自社に与えられているCO2排出権の範囲内で、ガソリン車を販売できるようになるかもしれません。そうなると、テスラの排出権を買う自動車メーカーがいなくなる可能性は十分にあります。