1つの専門領域だけで“人”を理解することはできない

それらの事例について調査研究したところ、方言を使い始めた時期に同年代の他者への関心・興味が芽生え、対人的スキル等に伸びが見られたことがわかりました。ことばと社会的関係が深く繋がっている様子がここにも見えます。

松本敏治『自閉症は津軽弁を話さない』(KADOKAWA)
松本敏治『自閉症は津軽弁を話さない 自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く』(角川ソフィア文庫)

さらには、日本語を話さず英語のみを話す自閉症のお子さんがいるとの情報も親御さんから寄せられました。これらをまとめたのが続編『自閉症は津軽弁を話さないリターンズ コミュニケーションを育む情報の獲得・共有のメカニズム』(福村出版)です。

振り返ると次々に出てくる謎と格闘してきた十数年でした。既存の理論を当てはめるだけではうまく解釈できず、「なぜ」と問い続け、謎を解くことの楽しさと苦しさを堪能していました。

(私も含めて)専門家は自分の持っている知識や理論で目の前の現象を解釈しようとしてしまいがちです。1つの専門領域の知見や理論だけで“人”を理解することの限界を感じたことで、他領域の研究者と交流することと知見や理論をまとめ上げていくことの面白さも知りました。

もう1つ感じたことは、現場の人々の経験や感覚に目を向けることの大切さです。

専門書や論文に書いてあるだけが崇高な研究テーマなのでしょうか。今回の本は私が自らの知識を過信し、現場の人の持っている経験知や感覚を軽視しそうになったところを踏みとどまらせてくれた歴史を綴ったものです。現場にいる人の経験に関心を持つことが“人“という存在を理解する上で重要なのだと痛感しています。

本を手にとってくださった方には、主流から外れても目の前にある未知の謎に迫ろうとする研究の在り方にも興味をもっていただけたら幸いです。

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