良いマンションを借りてあげてはいけない

落ちる不安に怯えて暮らすくらいなら、いっそ落としてしまえばいい。それが18歳での1人暮らしです。厳密には、1人で暮らす必要はありません。下宿でも寮でも、親元から離れて暮らすということです。例えば東京や大阪などの大都市は家賃も高いですから、下宿や寮が現実的な選択肢となるかもしれません。立派なワンルームマンションを借りてあげる必要はありません。いえ、借りてあげてはいけないのです。

東京には、地方から、海外から、たくさんの学生が集まっています。みんながいいマンションに住んでいるわけではありません。あまりキレイとは言えない寮や下宿を選ぶ学生も、もちろん多くいます。都心にも、風呂なし、トイレ共同といった物件はたくさんありますし、そういった物件は「バストイレ付き物件」と比べると、たいてい3~5万円ほど安く借りることができます。

親元を離れた生活を、そういった環境からスタートさせれば「自分はどこでも生活できる」という自信をつけることもできます。それこそ働いて「バストイレ付き」の部屋に引っ越したとしたら、自分の成長を肌で感じることができるもの。「一国一城の主」といった気分を味わえるかもしれません。

給料日に食べたハマチは、舌の上でとろけた

もう1つ、自分の成長を感じられるのは、なんと言っても「食」です。子どもの頃、私の家は商売をしていて、夕飯での晩酌は父の楽しみの1つでした。母はそのために、日本酒に合いそうな刺身や焼き魚をいつも父の前に出していました。その魚が本当に美味しそうで、子どもの私が「あの魚を食べたい」と言うと、母は決まって「稼げるようになったら食べなさい」と言っていました(笑)。

私は大学生になって自分から家を出ました。塾や家庭教師で生活費を稼ぎ、バイト代が出た日だけそれを握りしめ、飲み屋へ行ってハマチの刺身を注文しました。ちょうどハマチの養殖が始まった頃で、脂がのったハマチは舌の上でとろけるようでした。心の底から「うめえなぁ」と思ったものです。「このためにバイトをしてるんだ」という感じでした。子どもの頃、横目で見ていた父親の肴を自分で食べられるようになったのですから、「自分で稼げるようになった」という実感がありました。

狭いアパートですし、給料日のハマチ以外は大したものは食べられませんでしたが、生活にはとても満足していました。「自分の力で美味しいものを食べる」というのは、男子には特に響きます。自分の成長が感じられるのは、こんなときなのです。