物理学者が困惑した「スピリチュアル量子力学」

一方、この本では祈りについても触れられており、潜在意識は人間の祈りを「無限の知性」が理解できる周波数に変換する媒体であり、「無限の知性」からの返信が目的を達成するための明確なプランやアイデアであるとされます。

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写真=iStock.com/golubovy
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また、「感情と結びついた思考は、似たような思考を引き寄せる磁石である」という内容や、人間の脳には「思考の振動」があり、その波長が他人と合ったとき、「マスターマインド」という思考のバイブレーションが生まれて、偉大なエネルギーを得ることができるという内容もあり、ここではベルやヘルツ、アインシュタインといった物理学者が引用されます。

ここで見られる「引き寄せ」や物理学の引用は、後述する「引き寄せ量子力学」にもほぼそのまま引き継がれることとなります。

2021年2月、Twitterを眺めていると、「量子力学」に困惑する物理学出身者のツイートが流れてきました。物理学出身者がなぜいまごろ量子力学に困惑しているのだろうかと思って読んでみました。

すると、それは当時流行っていたClubhouseという音声SNSに「量子力学コーチ」なる人物のルームが存在し、物理学の話ではなく「自己実現」や「潜在意識」についてスピリチュアル系の人々が語っていて意味がわからないというものでした。

Clubhouse流行の勢いで本来の「量子力学」をやっている人たちが、スピリチュアル量子力学と出会ってしまい、何を言っているのか理解ができない状況が生まれていたのです。

全世界で2800万部を突破した『ザ・シークレット』シリーズ

スピリチュアル量子力学は物理学の量子力学を無理に解釈して自己啓発に接続したものであり、自然科学系の人たちが困惑するのも無理はありません。それは、自己啓発の系譜でよく使われる手法で、本質的には物理学とまったく違うものだからです。

引き寄せと物理学の引用はナポレオン・ヒルの頃から見られますが、量子力学コーチに直接結びつく「量子力学と自己啓発の組み合わせ」を広めたのは、2006年に出版されたロンダ・バーン『ザ・シークレット』(邦訳版は2007年に角川書店より刊行)です。

本書はもともとモチベーショナルスピーカーやチャネラーといった引き寄せ系自己啓発の関係者にインタビューした映画で、その内容を書籍化したものが自己啓発書としてベストセラーとなりました。発行部数はシリーズ累計で全世界で2800万部を突破しており、ご存知の方も少なくないでしょう。

タイトルのとおり、『ザ・シークレット』は秘密を明らかにする本で、「欲しいものすべてが手に入る」「人生に成功をもたらす『偉大なる秘密』なのです」と期待を高めた後、その秘密が「引き寄せの法則」であると明かされます。

これは、「人生であなたに起きていることは、すべてあなたが引き寄せています。あなたが思い、イメージすることが、あなたに引き寄せられて来るのです」という、ニューソートや自己啓発に多くみられる考え方です。