人のアカウントを使う「なりすまし」が横行

端末を“正しく”使った授業中でも、トラブルは多発していた。

「スプレッドシートを使って、授業の感想や気づいたことなど、みんなで書き込みをするのですが、全部消されて15分くらい授業が止まってしまうことがよくありました」(勇くん)

これは操作ミスで、意図せず消してしまったケースもあったが、なかにはいたずらで消した子もいたという。被害を訴えるのは、勇くんの友達の蓮くん(仮名)だ。

「スプレッドシートが消えたときに、履歴をたどればだれがやったかわかるのですが、身に覚えがないのに僕がやったことになったんです。5回くらい続いて、違うっていっても信用されませんでした。だけど、クロームブックから離れて友達と話していた時間に、俺が操作したことになっていたことがあって、それで別の人がやっているってわかってもらえたんです」

つまり、授業中に誰かが蓮くんに“なりすまし”て、いたずらをしたのだ。

なぜ、こういうことができたかというと、IDはクラスごとに前半が同じ数字で、末尾の3ケタが出席番号、そしてパスワードは、全員共通で「123456789」だったからだ。同じクラスの児童なら、出席番号がわかるので、簡単に蓮くんになりすますことができた。

「いろんな人が『なりすまし被害』にあっていて、書いていたものが消されたり、勝手に書き込まれたりしていました」(勇くん)

別の同級生の女の子も、「なりすましされるのがイヤすぎて、自分でパスワードを変えた子もいました。そうしたら先生に勝手に変えるなと怒られていました」と証言する。なぜ、同じパスワードにしたのか理由はわからないが、子供たちは意地悪したい相手や気になる相手のアカウントにログインして、作成中のスライドに“スタ連(スタンプを連打する)”したり、チャットに入って会話を覗いたり、とにかくやりたい放題の状態が続いた。

チャットで悪口を書かれた女子児童が自殺

A校長のいう「自主性に任せて、失敗の中で学ばせる」方針は、結局、取返しのつかない事態を招くことになる。

昨年11月30日の夜、当時6年生の山根詩織さん(仮名)が、自宅の部屋で首を吊って亡くなったのだ。部屋にあった遺書には「学校でいじめにあって自殺する」「A子とB子にいじめられていた」などとはっきりと書かれていた。

A子とB子がチャット上で「詩織、ウザイ」「まじで死んでほしい」とやりとりしていることは、“なりすまし”で覗くことで多くの同級生が知っていた。そして、詩織さん自身もクロームブック上でそれを目撃し、C子とD子に相談していたが、その後、C子とD子にもいじめられていた。これらは遺族が同級生からの証言を集ることでわかったことだ。

母親の弘美さん(仮名)は語る。

「わが家でスマホは与えていませんでした。パソコンもリビングに家族共有のデスクトップを一台置いていただけ。でも、クロームブックがわが家にきて、娘は部屋に引きこもるようになりました。クロームブックで悪口を書かれ、娘自身が自殺のことを調べていたこともわかっています。自殺の直接の原因はいじめですが、学校で配られたクロームブックがそれを助長し、娘を追い詰めた面もあるのではないでしょうか?」

山根夫妻は11月30日のうちに、遺書を持ってA校長を訪ねて調査を依頼する。しかし、その後、学校の対応に不信感を募らせていくことになる――。

(続く。次回は、9月14日公開予定)

9月13日、山根詩織さん(仮名)の遺族と代理人弁護士は、文部科学省記者クラブで事件についての会見を開きました。遺族は「学校は端末上で起きたいじめを放置し、適切に対処しなかった。GIGAスクール構想で配られた端末がいじめの温床になっていて、全国に娘と同じように苦しんでいる子どもがいるのではないか。安全性を担保してほしい」と訴えました。この連載では遺族の了承のもと、これから事件の細部に迫っていきます。
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