日本で最初に新型コロナウイルスの患者が確認されてから、1年半以上が経つ。我慢の多い生活のなかでメンタル不調を防ぐにはどうすればいいのか。産業医の池井佑丞さんは「企業側の健康管理が求められるのはもちろんだが、個人個人が対策することも大切だ。ポイントは5つある」という――。
2021年8月20日、週末の渋谷を走る「緊急事態宣言発令中」と書かれた東京都の宣伝カー。国内では20日、新たに2万5876人の新型コロナウイルス感染者が確認され、3日連続で過去最多となった。東京都では5405人の感染が判明、年代別では20代が最多
写真=時事通信フォト
2021年8月20日、週末の渋谷を走る「緊急事態宣言発令中」と書かれた東京都の宣伝カー。国内では20日、新たに2万5876人の新型コロナウイルス感染者が確認され、3日連続で過去最多となった。東京都では5405人の感染が判明、年代別では20代が最多

「対人関係」のストレス反応が減っている

2020年1月に新型コロナウイルス感染症の患者の発生が日本で確認されてから約1年半が経ちました。緊急事態宣言やまん延防止措置などさまざまな対策がとられていますが、感染は第5波となり、留まるところを知りません。コロナ禍により外出・帰省・会食などで自粛が求められ、我慢の多い生活を送っている方もたくさんいらっしゃると思います。

企業においては、前回のお話(「テレワーク→メンタル不調→退職」になる社員が最も恐れていること)のテーマにもなったテレワーク化が進んでおり、これは働く人々に好悪両方の影響を与えています。

例えば、ある企業(従業員数1800名)の2019年と2020年のストレスチェック結果を比較したデータを見てみますと、ストレス反応が全体として「低下した」という結果が出ています。具体的には、ストレス反応項目の変化として「イライラ感」や「疲労感」をもつ人の割合が減少しており、ストレス原因項目の変化としては「対人関係」が大きく減少傾向にあります(リクルートワークス研究所・HRデータラボ共同研究「コロナ下で、仕事のストレスは高まったか―ストレスチェックのデータを分析する―」坂本貴志)。

厚生労働省が全国の労働者を対象に行った調査でも、「強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄」として「職場の人間関係の問題」が最も多く挙げられており(厚生労働省「平成24年 労働者健康状況調査 結果の概要※平成24年調査をもって廃止)、人間関係がメンタルヘルス不調に大きく影響をもたらすこと、コロナ禍で人と人との接触の機会が減ったことによりストレス要因が減り、多くの人のメンタルヘルスが改善したことが考えられます。

コロナ以前には相談のなかった人が来る

一方で、私の産業医活動の中では、コロナ以前には特に相談のなかった人との面談の機会が増えた印象があります。今年に入ってから産業医を対象に行われたアンケート(アドバンテッジ リスク マネジメントが実施)でも、コロナ以降「予定外の追加業務が発生した」と答えた産業医は6割以上に上り、その追加業務の内容は、コロナの影響に伴うメンタル・フィジカル対応や休職者対応が多くを占めたといいます。また、訪問先企業における健康課題として最も多いのは、「メンタル不調者等への対応」だという結果となりました。

また、広島市が行ったアンケート調査では、「新型コロナウイルスの流行により憂うつになることが増えた」と回答した方の割合が、男性では39.1%、女性は55.5%という結果も出ています(広島市こころの健康に関するアンケート)。