コロナ禍においても重要な「経済安全保障戦略」

――もう一つ加えるなら、そのイラク人科学者は、そもそもドイツ連邦情報局の情報源でもあった。これは、我が国もそうですが、外国から得られた情報源の信頼性や情報の確度を検証する能力と意思が求められる気がします。

基本的に重要な政策決定のための情報ということになれば、検証というのは絶対に要りますね。実際、どの程度確度が高いのかといった検証が十分じゃなかったのかもしれませんね。

――米中新冷戦のまっただ中に起きたコロナ禍を、中国は世界秩序の再編に活用しようとしています。現下、外交、軍事、経済を俯瞰した安保政策の立案は死活的に重要になってきています。

そのコンテクストでは、繰り返しになりますが、経済安全保障戦略は極めて重要です。例えば、いま求められているのは、我が国しか果たし得ない「戦略的不可欠性」や特定国への過度な依存を回避して主体的に政策決定するための「戦略的自律性」、また国際ルールの形成を主体的に担って国際協調の中核となっていくことなのですが、この方向性を紡ぎ出す作業がまずは要るでしょうね。

星条旗と五星紅旗が描かれた鉄球がぶつかり合う
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内閣情報官と国家安全保障局長の役割

――そこで、政策立案に必要な情報を報告するよう指示する役割が国家安全保障局ですね。類似した名称・役割を持つNSCは米英等西側諸国のみならずロシア等多くの国に設置され、外交・安全保障政策等の立案、情報収集の指示等の司令塔となっていますが、我が国も2014年の国家安全保障局の設置でようやく情報機関と政策立案側の結節点ができて他国並みになった。

国家安全保障局から提示する情報関心に応えるべく、我が国のインテリジェンス・コミュニティは日夜、情報収集に当たっています。一方、情報関心が与えられないと、情報機関がそれぞれ自分の取りたい情報を集めることのみに必死になり、自己目的化してしまう。これは最悪です。

――すると政策決定者と情報当局の結節点の役割が肝腎です。結節点の一つは内閣情報官、もう一つが国家安全保障局長となりますか。

安全保障に関する如何なる政策でも、策定に当たって地域情勢を始めとして情報がなければ話にならない。その際、政策決定者から示された関心事項、これが最重要です。それに基づいて情報収集上の視点を関係機関に与えつつ、プロダクトを収集作成するのが内閣情報官の役割、そうしたプロダクトを消化して政策に反映させるのが国家安全保障局長の役割なのです。