※本稿は、北村滋『情報と国家 憲政史上最長の政権を支えたインテリジェンスの原点』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
情報交換には「同水準の仕組み」が必要
――2014年12月、特定秘密保護法が施行されました。一部のメディア、世論は激しく反発しましたが、情報を「守る」ことは「使う」ことの前提。同法の意義について、生みの親としてお聞かせください。
おっしゃるように、重要な情報の交換に当たり、相互に漏洩防止の安心感を持たせるということです。例えばあなたがオレンジジュースを、私がグレープフルーツジュースを、それぞれコップ一杯ずつ持っている。それをそのまま互いにグラスごと渡す。これは交換の一つの在り方です。違うもの同士の交換です。
もう一つは、私は何も持っていないが、あなたから自分の空のコップに注いでもらう。そしてそれを少し甘くして、つまり付加価値を付けてあなたに返す。情報のギブ・アンド・テイクの原則もこうしたことに似ている。ただその前提は、コップが同じ強度でないと、この交換は成り立たないということ。つまり情報保全の仕組みが互いに同水準で制度化されていることが、情報交換の出発点なわけです。
特定秘密保護法は、外交、防衛、防諜、テロリズムという四分野における非常に機微な情報について、かなり高い刑罰法規で守られる仕組みです。これができて初めて、情報を託す方も安心するでしょう。このことは既に述べたように、米国当局からは強く要請されてきた。法施行によって情報交換の質・量とも格段に上がったと思います。
母親からの一言「世の中を暗くしないでくれ」
特定秘密保護法に対する逆風は非常に強かった。法案の成立の日には国会議事堂が「人間の鎖」で取り囲まれようとしました。大変申し訳ないことでしたが、安倍政権の政治的リソースも消耗させました。一部のメディアは、法が施行されると監視され、取り締まられて映画も撮れなくなるなどと書き立てていた。ただ、施行された現状を見てほしい。全然変わらないでしょう。
――当時、お母さまからも小言を言われたそうですね。
言われました。一部のメディアは、治安維持法の時代に逆戻りすると書き立てましたから。世の中を暗くしないでくれと。ただ、本当に暗くなりましたか。何度も言うようですが、安全保障に関する情報交換の枠組みは法整備でやっと出発点に立ったということなんです。情報を提供され、こちらも提供する体制が、かなりの部分できつつある。特定秘密保護法の施行によって初めて、情報保護協定も各国と結べているのです。