国民への情報提供スピードが上がっている

――2017年に日本海に着弾したスカッドミサイル四発同時発射の折には、専門家が、日米の迎撃・対応力を超える「飽和攻撃」の可能性を指摘していますが、協議ではこうした点も議論されたわけですね。

様々な問題について議論をしました。一般的に飽和攻撃がなされた場合には、迎撃が困難になることは事実でしょう。また1000キロを超える高高度から落下することで弾頭速度が高速になるロフテッド軌道についても、そうなのかもしれません。

――そういう場面では得られた情報を正確に評価し、政策決定者、首脳に早く、強く、端的にインプットする必要が生じるわけですね。

当時の安倍内閣では、危機管理が政権の一つの大きな柱でした。その意味でも、総理、官房長官のセンシティビティも非常に高かったし、北朝鮮のミサイル発射や核実験の度に国家安全保障会議(NSC)を開催しました。

なにより、情報保全体制を構築して日米での信頼関係を深めていた。そして、早期の情報共有体制ができていたので、こうしたことが可能だったのです。菅義偉総理も、官房長官当時には非常に早いタイミングで記者会見をされていました。

2019年10月2日、島根県沖の排他的経済水域内に着弾した北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とみられる飛翔体の発射時には、7時10分ごろ発射され、記者会見まで1時間もかかっていません。発射の把握から国民への情報提供までのレスポンスは格段に早くなった。こうしたことも2013年の国家安全保障会議、14年の国家安全保障局の発足以降、整えられてきました。

トランプ前大統領の当選には準備不足だった

――朝鮮半島がきな臭くなる中で、米朝緊張のもう一方の当事者であるトランプ政権誕生(2017年)も我が国の外交安保政策に大きく影響しました。

当時留意したのは、トランプ前大統領のアンプレディクタビリティ(予測不可能性)ですね。ニクソン元大統領の日本頭越し外交とか、ニクソン・ショック等といわれた共和党の外交姿勢がトランプ外交の主軸となるのではないかという見立てもありましたから、かなり心配しました。というのも、2016年の米国大統領選では、直前まで我が国の外務省はヒラリー・クリントン氏の当選を予測していた。トランプ氏の当選には正直に言えば驚いたし、官邸としてもトランプ氏の人脈や思考傾向の把握等の点で準備不足でした。そこで、当時、首席内閣総理大臣秘書官の今井尚哉氏と打ち合わせて、なるべく早い段階で安倍前総理にトランプ氏に会ってもらおうという方針を固めました。