父親の糖尿病悪化と副業

2017年、25歳になった井上さんは、自身の健康状態が悪くなり、父親の介護との両立が難しくなってきた。そのため、拘束時間が長く、ハードな販売の仕事を退職し、介護施設の事務の仕事に転職。

2018年夏、66歳になった父親は、糖尿病が悪化し、具合が悪くなることが増えた。その度に「病院へ連れて行け!」と騒ぎ、2週間ほど血糖値コントロールのために入院しては、退院後1~2カ月で再び具合が悪くなって入院するということを繰り返すようになっていた。

健康診断シート
写真=iStock.com/takasuu
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「父は、私が作る料理が悪いから、私が外に連れ出して運動させてくれないから、糖尿が悪化したと言いますが、自業自得だと思います。私がどれだけ糖質制限食を作っても、ヘルパーさんに甘いパンやお菓子やジュースを買ってきてもらって、好きなだけ食べているのですから。食べ物を取り上げると激怒しますし、注意をしても攻撃されるだけ。ヘルパーさんも父が怖いので、逆らえずに言いなりになるしかないのです」

井上さんは、大抵の暴言には耐えるが、父親の言動があまりにも酷く、感情が抑えられなくなるときもある。そんなときは、「それは違うんじゃない?」と優しく正すが、それでも父親にとっては、「否定された!」と受け取って一方的に怒り出し、暴れ出すことは日常茶飯事。そのうえこの頃は、糖尿病の悪化のため、血糖値が上がると具合が悪くなり、「病院へ連れて行け!」と騒ぐので、仕事やプライベートの予定がつぶれることが増えていた。

また、父親は自分でパソコンを使い、インターネットで糖尿病の治療をしてくれる評判の良い病院を調べては、「ここへ連れて行け!」「あそこの病院がいい!」と有無を言わさない。時には車で片道1時間以上もかかる病院に連れて行かされることもあった。

介護施設の事務に転職したことをきっかけに、「少しでも収入を増やしたい」と思った井上さんは、インターネットで仕事を探し、副業としてライティングの仕事を始めた。

1年ほど経った頃、「いくらお金のためと言えども、どうせなら自分の好きなこともやりたい」と思い、編曲やBGMの作曲、インターネットサイトのコーディング(プログラミング言語を使ってプログラミングコードを記述する作業)の仕事も受けるように。

井上さんの家にはピアノがあり、井上さんは物心ついた頃から曲を聞くだけで音がわかり、比較的すぐに弾けるようになった。学生の頃は吹奏楽部に入り、楽譜の読み方はそのときに覚えた。作曲や編曲は、好きなアイドルの曲を自分で編曲しているうちに、編曲や作曲に自信が持てるようになっていった。コーディングは、本やインターネットで調べるなどして、独学で覚えたという。

2020年12月、仕事や介護の合間に好きなバンドの曲を聴いていたところ、「人生の主役はあなただ」という内容の歌詞にふと、意識が集中する。漠然と、「私の人生を小説にしたら面白いだろうな」と考え始め、とりあえず短編のエッセイのようなものを書き始めることに。そして2021年2月、Amazonから電子書籍を出版。これまでに250部売れた。