23歳で結婚後、義親と二世帯住宅に住む54歳の女性は2人の子供にも恵まれ、幸せを享受していた。だがその後の生活は「4人の親」に翻弄される日々。隣町に住む実父が肝臓がんで他界し、実母も厄介な持病を抱える。義父は心筋梗塞の影響で運転中に突然視界が真っ暗になり認知症に、義母も胃がんを患うなどして要介護状態。病魔の蟻地獄のような暮らしで、心の安らぎを得ることができない――。
孤独で押しつぶされそうで、ベッドから立ち上がれない女性
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この連載では、「シングル介護」の事例を紹介していく。「シングル介護」とは、主に未婚者や、配偶者と離婚や死別した人などが、兄弟姉妹がいるいないに関わらず、介護を1人で担っているケースを指す。その当事者をめぐる状況は過酷だ。「一線を越えそうになる」という声もたびたび耳にしてきた。なぜそんな危機的状況が生まれるのか。私の取材事例を通じて、社会に警鐘を鳴らしていきたい。

父の死

近畿地方在住の花田陽菜さん(仮名・54歳・既婚)は、魚屋や宅配、警備の仕事などを掛け持ちする父親と専業主婦の母親の間に生まれた。7歳上の兄とは仲が良かった。

花田さんは短大を卒業後、就職して経理として働き始める。

20歳のとき、友人の結婚式で夫と出会い、付き合い始めて約1年半後の1990年4月、花田さんが23歳になってすぐ結婚。その1年後には長女を、4年後には次女を出産した。

夫は車のディーラーで整備士として働いていた。結婚当初は、花田さんの両親が所有するマンションの一室で暮らしていたが、翌年に夫が転勤になったのを機に、夫の父親が経営する工場の上に二世帯住宅を建てることに。完成後に同居を開始し、2年後に夫はディーラーを辞め、父親の会社を継ぎ、花田さんも経理としてサポートをし始めた。

当時62歳になっていた義父は、明るく話上手で、とても優しく賢い人。嫁に来て以来、花田さんを本当の娘のようにかわいがり、花田さんも夫も尊敬していた。

2004年9月、花田さんの父親(当時76歳)に肝臓がんが発覚。手術の予定はまだ先だったが、父親が「体がかゆい」と言うため調べてみると、医師から「よく起きていられましたね」と言われるほど血糖値が高くなっていることがわかり、即入院となる。

詳しい検査をしたところ、胆管とすい臓が交わる部分に腫瘍があり、翌年1月、肝臓もすい臓も切除する手術を行うことに。

ところが手術後、動脈硬化もあった父親は、手術で切った部分をつなげようとするとすぐに壊死してしまい、なかなかつながらない。また、すい臓を切除してしまうとインシュリンが出ないため、糖尿病患者のようになり、一向に手術の傷が治らない。手術後の痛みも治まらないため、父親は、「早く迎えに来てほしいとお母(花田さんの父方の祖母)に言ってる」と見舞いに来た花田さんにつぶやき、悲しい思いをした。

2005年4月、突然高熱が出た父親は、集中治療室に運ばれる。花田さんは、「九州にいる兄を呼んだほうがいいですか?」と医師に訊ねたが、「治りますので大丈夫です」と答えた。しかし、その2日後に父親は亡くなった。77歳だった。

死因は肺炎とのこと。医師は、「解剖をさせてほしい」と言ったが、母親は断った。