覚醒と衰勢を繰り返す義父

義母に胃がんが発覚すると、毎日のように「しんどい」と言っていた義父は、突然覚醒したかのように明るく元気になり、義母の負担を少しでも減らそうと家事をサポートするようになる。

義母は入院して手術を受け、胃の5分の4を摘出した。

しかし義父の覚醒状態は、長くは続かなかった。2014年、義父は徐々に脈拍が遅くなり、不整脈が出るようになっていたため、ペースメーカーの埋め込み手術を受けることに。手術自体は問題なく終わり、10日間ほどで退院したが、義父は、「誰かが上から見ている」「部屋に蝶々が飛んでいる」などとせん妄症状に見舞われるようになる。

義父のせん妄は一向に治まらず、家にいても落ち着きがなく、再び毎日「しんどい、しんどい」と言う状態に戻ってしまった。困り果てた義母は、花田さん夫婦に相談。夫が、「母さんの手に負えないなら、施設に入れるしかないか……」とポツリ。それを聞いていた義父は、また突然覚醒したかのようにシャンとし、以前のような明るく元気な義父に戻った。

パジャマ姿で歩く男性のスリッパをはいた足元
写真=iStock.com/Sergey Dogadin
※写真はイメージです

「どうも義父は、ピンチになると覚醒するようでしたが、それでもだんだん『あれ?』と思うことが増えていきました」

2006年に医大を退学処分になった姪に、母親である義姉は、「もう諦めて働きなさい」と言ったが、義姉の元夫は「もう一度だけ頑張ってみなさい」と言ってチャンスを与えたところ、2007年に再度医大に合格していた。

2016年3月、そんな姪が無事大学を卒業し、引越しをすることになったため義父母が手伝いに行ったところ、義父はたった数時間の滞在の間に、トイレの場所を3回も聞いたと、花田さん夫婦は姪から聞く。以前から「怪しい」と疑っていた花田さん夫婦は、「やっぱりか……」と思った。

一方、花田さんの長女は、保育園の年少の頃に発表会でお芝居をして以降、ずっと舞台女優に憧れ、2014年に大学を卒業してから、劇団のレッスンに通っていた。だが、2015年3月、「ここではチャンスが少ないから」と言って単身上京。2016年の4月に上京後初の公演が決まると、花田さん夫婦は義両親とともに、観劇&浅草観光へ。浅草で夫が義父に車椅子を勧めると、嫌がることなくすぐに座った。プライドが高い義父はいつも断っていたため、花田さん夫婦と義母は驚いた。

ところが、東京から帰った翌日、義父が東京旅行のことを忘れてしまっていることに一同は唖然とする。

「義父は、東京旅行のあたりから、意識のオンオフが見られるようになりました。オンの日は明るく元気な様子で饒舌になり、大きな声で笑うことも多かったのですが、オフの日は家の中で静かにしています。以降、義母の様子がおかしいと気付くまで、義父のことは義母に任せていたので、私も夫も義父の変化に気付かずにいました」