介護の金銭的負担と制度の矛盾

井上さんは、今年の春まで介護事務として施設で働いていたが、今後の父親の介護や自分の生活のことを考え、副業を開始。フリーランスで稼ぐ力を付けてから退職し、現在はフリーランスでライターや音楽関係の仕事をしている。

「介護離職というわけではありませんでしたが、退職すると同時に父の肺がんが見つかり、急速に悪化。毎日のようにあちこちの病院に連れて行けと振り回されたので、退職したタイミングとしては良かったと思っています」

介護施設の事務の仕事をしながら、お金のために副業を始めた頃、睡眠時間は4時間程しかなかった。

「朝4時に起きて副業の仕事をして、8時に父のマンションへ行き、9時から本業。仕事中も父からのメールや電話の対応に追われ、17時に退勤。父の家へ直行し、夕食の支度やその他の家事を行い、20時に帰宅。0時になるまで副業をする毎日でした」

夜に空白の乱雑なベッド
写真=iStock.com/onsuda
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この他に、通院がある日は、仕事を休んで父親の通院に付き添った。

副業を始めて、金銭的に少し余裕が生まれてからは、保険外で家事代行や民間ヘルパーを増やし、自費でショートステイや宅配弁当を利用。できた時間でまた副業をして稼ぎ、介護の負担は軽減。

ただ、以前、父親が包丁を持ち出して暴れ、強制入院をして、退院したときはまだ59歳。その頃は精神障害者居宅介護等事業のヘルパーと、自立支援医療(精神通院医療)の訪問看護師を入れながら生活することができたが、父親が65歳になると同時に介護保険に切り替わり、介護認定を受けたところ、要支援2と認定。精神疾患の父親にとっては、介護保険サービスではカバーしきれていない部分が多く、「ニーズに合っていないと感じた」と井上さんは言う。

「父が必要としているサービスは、主にヘルパーでした。自立支援の時は週に3回のヘルパーでしたが、介護保険に切り替わり、介護保険内で利用できるのは週2回となりました。残りの1回を自立支援のサービスと併用する形で生活は成り立っていましたが、突然ヘルパー事務所も支援者も変わるので、環境の変化のために父の体調は不安定になりました。65歳という年齢を境に介護保険が優先され、要支援2だと、保険内で使えるサービスも少ないうえ、派遣されるヘルパーさんも精神障害専門のヘルパーさんではないので、父の扱いに苦労していたようでした」

現在父親は、精神科に入院中だ。深夜の徘徊がきっかけで呼吸器内科に入院したあと、がんの緩和病棟に転院したが、緩和ケア病棟でも深夜の徘徊が収まらず、8月に精神科へ移動になった。