アメリカ軍のアフガニスタン撤退は中国に有利に働いている。中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉さんは「アフガニスタンにあったアメリカの傀儡政権は、中国の『一帯一路』を中断するものだった。中国がタリバン政権を支持するのは当然の帰結だろう」という――。
アフガニスタン、中国
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タリバンは「傀儡政権を倒して新国家を樹立」と宣言

アフガニスタンのイスラム原理主義・反政府武装集団だったタリバンは8月15日に電撃的な勝利をおさめ、8月19日には「アフガンイスラム首長国」建国を宣言した。

102年前(=1919年)のこの日、アフガニスタンはイギリスの統治から独立を果たしており、その後毎年「独立記念日」として祝賀してきた。この日を選んで建国宣言をしたのは「外国による占領からアフガン人が独立するのだ」というメッセージを込めている。

2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロ(9・11事件)の主犯はイスラム過激主義集団アルカイダのリーダーであるウサマ・ビン・ラディンであるとして、アメリカは当時のタリバンが支配していたアフガニスタンにかくまっていると言われたビン・ラディンの引き渡しを要求した。

それを拒絶したのでアメリカがアフガニスタンを軍事攻撃してタリバン政府を崩壊させ、アメリカの言う通りに動くアフガニスタン政府を新たに設立させたのである。だから「アメリカという外国」によって統治されていたアフガン傀儡政権を倒して新国家を樹立させるので、独立記念日を選んだというわけである。

中国とロシアがアフガニスタンから撤退しないワケ

「国家」として承認されるには、まだ時間がかかるだろう。しかし、すでに世界は「アメリカの敗北と衰退」および「武力攻撃による他民族国家の支配は失敗に終わる」という事実を認識しつつある。

何よりも米兵や米大使館関係者がアフガン市民を払いのけてカブール空港から退避するさまは、「これまでアメリカに協力してきた同盟国の民を切り捨てる国家」というイメージを与え、アメリカは信用をなくしてしまった。特にタリバンから逃げたいとして飛び立つ飛行機にしがみついて落下し死亡した少年の姿は全世界に衝撃を与え、アメリカの衰退と非情を如実に表す映像として人々の目に焼き付いている。

一方、かつてはアメリカに呼応してアフガニスタンに派兵したNATOなど多くの国の駐アフガニスタン大使館が撤収に向けて慌てたのに対して、中国大使館とロシア大使館だけは微動だにしなかった。タリバンが勝利しても危害を加えられる危険性がないのをあらかじめ知っていたからだ。これはとりもなおさず、中国とロシアがいかにタリバンと水面下でつながっていたかを物語っていると言っていいだろう。