軍事攻撃での統治から経済支援での統治へ
物理には「相転換」という言葉がある。「相(フェイズ)」が突如、劇的に異なる状態へと変化することを指す。このたびのタリバン快進撃は、アメリカの覇権から中国の覇権へとフェイズが転換していくことにつながっていく。
それに伴って、アメリカが「相手国に処罰を与えるために、相手国を軍事的に攻撃し、相手国の統治体制を変えようとする手段」が破綻をきたし、それに代わって中国が「チャイナマネーで当該国を中国側に引き寄せていくという手段」が幅を利かす時代に転換しようとしていると言えるかもしれない。
アメリカがNATO軍を従えて2001年から20年もの長きにわたって支援してきたアフガニスタン政府は、軍や政府要人の腐敗により統率力を無くしていたし、その証拠にガニ元大統領はタリバンの猛攻撃を前にして国外逃亡してしまい、政府軍は完全に闘志を失ってしまった。そうでなくとも「米軍は8月末までに撤退する」とバイデン大統領は宣言してしまったので、その期限を9月11日まで延期しようと、もう遅い。後ろ盾を失ったアフガン政府軍が戦いを放棄したとしても不思議ではない。
アフガン政府の腐敗を招いたことも含めて、アメリカには統治能力がなかったことを意味している。せめてアフガン政府に「腐敗を無くし、自力で戦わなければ支援を打ち切るぞ」という「交換条件」を突き付けていれば何とかなったかもしれないが、支援するアメリカの方も漫然と20年間にもわたって1兆ドルにのぼるお金をアフガン政府統治に注いできたのだから、怠慢だったと言われても仕方ないだろう。
アメリカより中国の方が統治能力が高いと評価されかねない
それに比べて中国は、チャイナマネーと軍事力で脅しを与え続けることによってタリバンをコントロールしテロ組織を撲滅させるという“交換条件”戦略を進めているので、もし成功すれば、統治能力がアメリカよりも高いと評価される結果を招く可能性がある。
そうなると米中の覇権争いに劇的な相転換が起きる「恐るべき現実」が、いま私たちの目の前に横たわっているということになろう。
もっとも、タリバンと深く関わっている習近平政権だが、その一方では、実はタリバンがテロ活動と完全に縁を切るか否かに関しては、本当は心底から信用しているわけではないようだ。
なぜなら8月9日に「反テロ」のための中露軍事演習をしたり、タリバン勝利後もなお、8月18日~19日にタジキスタンの首都で、やはり「反テロ」を目的とした軍事演習をしたりなどしているからだ。非常に用心深くタリバンをテストしながらでないと「国家として承認する」という結論を出そうとしていないことがまた、何とも興味深い。しばらくは成り行きを注目したい。