ようやく立てたスタートライン

文字や教授の話す内容を理解するのは諦め、1分毎ぐらいに変わるスクリーンの情報を必死にノートに書き写した。

カメラ機材を持ち水中での調査をする山舩さん
写真=筆者提供
カメラ機材を持ち水中での調査をする山舩さん

授業が終わると船舶考古学プログラムに併設されている小さな図書室に走り込んで、書きなぐったスケッチと同じ写真や図のある本を探し出し、その図のことを説明しているページを、電子辞書を使いながら少しずつ読む。2回目の授業からは教授に許可を取って授業内容を録音し、とにかく、それを毎回続けた。75分のクラスの内容ノートをまとめるのに、毎回15~20時間はかかったのを覚えている。

しかしもうやるしかなかった。毎週3日のペースで徹夜して勉強することとなった。

猛勉強の甲斐もあり、仮入学の1年間の2セメスターの授業でギリギリ平均B以上を取ることができ、2009年、正式に船舶考古学プログラムに修士課程の大学院生として入学することができた。これで、ようやく目標のスタートラインに立てた。

研究室の門をたたく

大学院の授業の中で特に私の心を鷲掴みにしたのが、「沈没船の復元再構築」という授業だった。

海底調査をする山舩さん
写真=University of Zadar.
ドレッジという器具を使った水中発掘の様子

復元再構築とは、簡単に話すと、沈没船遺跡で崩れた状態で発見された船から、発掘によって必要な情報を取り出し、それを基に船の姿(船型)を復元して、その船の積載量や帆走能力を導き出す方法論である。

「船」という乗り物に込められた先人達の技術を、パズルのピースを合わせていくように解き明かすのが醍醐味だ。当時の私は手探りだったが、様々な先行研究や、発掘の文献や歴史的な資料から断片的に情報を集め、組み合わせていく作業がたまらなく楽しかった。

「もっと勉強したい!」

私は気持ちが抑えられなくなっていった。

テキサスA&M大学の船舶考古学プログラムには当時7人の教授がいて、それぞれの教授に対し、1~2人の大学院生が研究助手(Research Assistant)として働きながら、研究技術を吸収していた。研究助手は成績上位の学生の中から教授の独断で選ばれる。英語が苦手だった大学院入学当時の私は、どうあがいても復元再構築の授業を担当しているカストロ教授の助手になれる可能性は極めて低いと分かっていた。

そこで奇策に打って出た。

春学期も終わり、夏休みになったその初日……。

「たのもーーーーー!!!」

実際にはそんな声は上げていないが、それくらいの気合で教授の研究室を訪ねて、「掃除でもなんでもするから、復元再構築をもっと教えてくれないか」と頼み込んだ。カストロ教授は笑いながら快く受け入れてくれた。

私は大学院時代の6年間、教授にお世話になった。