「片付ける費用を誰が払うの?」
1週間ほどして女性が病院から退院すると、大家は弁護士に間に入ってもらい、女性に退去願いを出した。しかし両親はすでに亡くなっており、彼女に行くところはない。
あらゆる手を尽くして探すと、女性に娘がいることがわかり、引き取ってもらうことになった。
今年3月、鍵を返しに来た女性に「このゴミ部屋を片付ける費用を誰が払うの?」と大家が詰め寄ると、「いずれ、少しずつ」とか細い声で答えたという。そうはいっても、2年間家賃を払っていない人が、この作業代を支払えるわけがない。あんしんネットの石見さんが事前に見積もると、1回の作業で2トンロングトラック分のゴミを搬出したとして、作業は4、5日かかり、1日あたり30万円程度の費用が発生するという。
「何とか200万円以内に収めたいという感じです。大家さんにしてみればこのあとのリフォーム代も負担しなければいけないので、私も久々に気が重い現場です」
珍しく、いや初めて石見さんが「気が重い」という言葉を口にした。何の罪もない、80代後半の人の良い大家が大金を支払わなければならないことが、つらいのだろう。
段ボールに物を詰めて、無理やりテープで閉じたような部屋
私は初日の作業に参加させてもらった。
部屋に入る入り口は「玄関」と「ベランダ」側の2箇所。ベランダ側のすぐそばにトラックがつけられたので、ベランダから搬出すれば効率がいい。
「開けてみて」
石見さんが言い、アルバイト作業員が窓を開けたが、物が詰まりすぎていて、外側から少し中の物を引っ張ったくらいではピクリとも動かない。石見さんが苦笑いしながら「もういい。何とか(窓を)閉めて」と言う。
それでは玄関からということになるが、玄関もまたパンパンに物が詰まっている。1DKの室内の空間全体を段ボールに例えると、段ボールに限界まで物を詰めて無理やりガムテープで閉じたような感じだ。実際に、誰にも侵入してほしくないという思いからだろうか、玄関の扉に沿って赤いボンドを塗っていた形跡があった。
ゴミがカチコチに固まっていて取り出せない。しかも狭い入り口だから最初は人一人くらいしかそこに立てない。ベテラン作業員がビニールの手袋で少しずつ中の物を出す、そしてバケツリレー方式でほかの作業員同士で手渡していく、という作業を繰り返していった。