傘は40本以上、ペットボトルは1日だけで3箱分
玄関口でとりわけ多かったのは、「傘」そして「水が入ったペットボトル」だ。傘は40本以上、ペットボトルは引っ越し用の大きな段ボールにその日1日だけで3箱分は出てきた。それも飲みかけのものなのだ。“水入り”では捨てられないので、エントランス脇の排水溝にペットボトルの水を捨てていく。
大家は心配そうに見守っていた。
その時、1階の隣の部屋から、男性が出てきた。玄関ドアを開けっ放しで作業するしかないため、通りすがりの人でも中をのぞける。男性は室内を見てぎょっとした表情をした。大家も男性に「すみません。申し訳ない」と頭を下げる。その姿勢に胸が痛んだ。私が隣に住んでいたら最悪だと思うだろう。すぐさま引っ越したい。そして大家の立場として考えても、「なぜ自分が」という思いにかられるだろう。
1時間半程度かかって、やっとのこと玄関スペースのゴミを搬出し、大人二人が中に入れるスペースができた。
石見さんが指示し、あんしんネットの玉城力さんが防護服を着てゴミ山に登り、天井とゴミ山頂上のわずかな隙間に座り、そこからゴミの塊を落とすことになった。ゴミ山の下から“ゴミをかきだす”よりも、ゴミ山によじ登って、上からゴミを落としていく形のほうが作業が早いのだ。
コチコチに固まったティッシュの塊
ゴミ山の上からは紫色に染まったティッシュの塊が落ちてきた。
「なんでしょう?」
そばにいた石見さんにおそるおそる尋ねると、
「あぁ尿だろうね」
やはり……、と思った。ペットボトルに入れられた尿ではなく、巨大なティッシュの塊にしみこんだ尿。どれくらい大きいかというと、直径が「腕の長さ」くらいあるものがほとんどである。ティッシュといわれて思い浮かべる柔らかいものではなく、コチコチに固まっている。
「なんかさ、ゴミに色がないよね」
あるアルバイトの作業員がつぶやいた。