女性はどうやって食事を取っていたのか
たしかにそうだ。普通はゴミ山に“層”がある。底辺にあるものがゴミ部屋の初期で、本や雑誌類があることが多い。そこから年月が経ち、ぬいぐるみだったり、食品だったり、その時期の家主の“ブーム”が積み重なってゴミ屋敷になっていく。
だがこの女性の部屋はどこまでいっても、どの高さのゴミでも、ティッシュ、ペットボトル、ティッシュ、ペットボトルの繰り返し。それに時々ビニールに入ったどろっとしたものも混じる。便である。処分用段ボールの内側に90リットルのゴミ袋をセットし、二人がかりで慎重に入れていく。
不思議なことに、ここには独特のゴミ屋敷の臭いがなかった。尿や便があり、ゴミが天井近くまで積もれば、強烈な生ゴミ臭さが当然あるものだ。だが漂うのは土っぽいホコリっぽい空気で、人間が生きていたような臭いがない。
この女性はどうやって食事を取っていたのだろう。ほとんど水でしのいでいたのだろうか。その日、私が目にした生ゴミはたった一つ。粒をきれいに食べつくした「とうもろこし」の芯だ。生きることを放棄したような乱雑な空間で、それだけはきれいに人が食べた形跡で、私は凝視してしまった。
盗品と思われる財布や他人名義のクレジットカードも
お金には困っていたようで、複数の消費者金融や住民税の支払いの督促状が何枚か出てきた。「財産差し押さえ通知」もあった。それを見た石見さんが冗談めかして「差し押さえてほしいな」とつぶやき、皆で笑う。
その後、盗品と思われる財布や他人名義のクレジットカードまで出てきた。これは大家が依頼する弁護士に渡すという。
5時間程度で、2トントラック満タンまでゴミを搬出し、その日の作業は終了となった。
「ご苦労さま」
大家が「みんなでお茶でも」と言って、数千円のお茶代を作業員に手渡す。その優しさにまた胸が痛む。
「災難でしたね」
私が話しかけると、「本当よ。まさか中があんなになっているとはねぇ。もうあの人が入居したのは30年以上前だし、当時仲介してくれた不動産屋はないし……。お金がどれだけかかるんだろう。でもあの人が時々もってくる1万円じゃ追いつかないもの。まいっちゃうわよ」。
大家の目に涙が浮かんでいた。