五輪とともに「子育て優先の生活」も延期

家族の理解と協力を得ながら、選手生活を続けて迎えた2020年春。娘の和香ちゃんが小学校に入学した。「友達がたくさんいる刈谷に残りたい」と言う娘を説得し、母とともに、荒木さんの実家がある千葉県柏市に引っ越すことを決めた。2020年夏に開催予定だった東京五輪をもって選手キャリアに一区切りをつけ、五輪後は柏市で、子育て優先の生活を送ろうと考えていた。

ところが、予期せぬ新型コロナウイルス感染拡大によって、五輪が延期になり、シナリオが大幅に狂ってしまった。荒木さんは、愛知県刈谷市に単身赴任することになった。葛藤はもちろんあったが、「決めたことは絶対にやり遂げる」という強い意思は揺らがなかった。

「五輪後のことは考えない」

そんな荒木さんを、女子日本代表の中田久美監督はキャプテンに指名。チームの統率を任せた。

娘・和香ちゃんと荒木絵里香さん 写真=本人提供
娘・和香ちゃんと荒木絵里香さん 写真=本人提供

「2019年の年末に携帯に連絡があって『キャプテンをやってほしい』と言われました。それまでキャプテンだった名奈(岩坂名奈選手。2021年4月に引退)の気持ちもあるし、『いったん考えさせてください』と返事をして、家族に相談しました。旦那さんから『ぜひやるべき。頑張れ』と言われ、ポジティブな気持ちになり、引き受けることにしたんです」

キャプテンを務めるのはロンドン五輪以来。当時は竹下佳江選手(現・ヴィクトリーナ姫路取締役球団副社長)、木村沙織選手(2017年3月に引退)らチームをリードしてくれる存在がいたが、チーム最年長かつ4度目の五輪参戦となる今回は立場がまるで違う。

しかも、コロナ禍でミーティングも満足にできない状況の中、若いチームを引っ張っていくのは至難の業だ。五輪開催への賛否両論が渦巻くなか、経験値の少ない選手の中には、不安やストレスを抱える人が出てくるかもしれない。精神面のケアをしながら最高のパフォーマンスを引き出す役割は重責だ。しかし、荒木さんならそれができるという期待が中田監督にあったのだろう。

荒木さんは、こうした期待をエネルギーに変えている。東京五輪が終わるまでは愛娘と過ごす時間もほとんど持てないが、「五輪の後のことは今、一切考えていません」と、今できることだけに集中している。

中田久美監督率いる日本代表チームは、5月下旬から1カ月間にわたってイタリア・リミニで行われたFIVB(国際バレーボール連盟)バレーボールネーションズリーグ2021に参戦した。チームは6月25日の3位決定戦・トルコ戦に惜しくも0-3で敗れ、4位で大会を終えたが、間近に迫った東京五輪に向け、大きな自信と手ごたえをつかむと同時に、メダルへの課題を突き付けられる形となった。

「久しぶりの国際大会で17試合戦いましたが、その中には劣勢から逆転で勝つ試合もあり、苦しい状況を乗り越える経験をできたことは収穫になりました。ただ、ファイナルラウンドの2連戦では、トップに立つために乗り越えるべき課題が明らかになりました。私自身の五輪への挑戦は今回が最後になると思うので、今まで一緒に戦ってくれた仲間に感謝しながら全てを出し切りたい。最高の結果をつかみたいです」と荒木絵里香主将は力強く前を向いた。

中田久美監督も「キャプテンの荒木はチーム唯一のママさんアスリート。彼女のような存在が当たり前なスポーツ界になってほしい。そういう意味でも期待しています」とエールを送っていた。36歳のキャプテンが大舞台で輝いて日本をメダルへと導き、娘に喜びと感動を与える大会になることを強く祈りたい。

(文=元川 悦子)
【関連記事】
子どもに月経や射精について話すときに「絶対使ってはいけない言葉」2つ
「初の"ママ"サッカープロリーガー」34歳の元なでしこが付ける背番号「33」の意味
「仕事やお金を失ってもやめられない」性欲の強さと関係なく発症する"セックス依存症"の怖さ
「底辺校から東大へ行く子vs地頭がいいのに深海に沈む子」明暗決める12歳までの親の"ある行動"
月収44万68歳の悩み"暇で暇で死にそう"