新聞や雑誌などでは、ときおり「発言していないことを書かれた」というトラブルが起きる。言語学者の川添愛さんは「そうした背景には、他人が自分の言葉に対して不正確な言い換えをすると非常に気になるが、自分が他人に対して同じことをしているときは、なかなか気づくことができない、という構造がある」という――。

※本稿は、川添愛『ふだん使いの言語学 「ことばの基礎力」を鍛えるヒント』(新潮選書)の一部を再編集したものです。

見出しに「フェイクニュース」と書かれた新聞
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「婚活中と思われて迷惑だった」ケーススタディ

自分の言ったことに対して、他人から余計な「色付け」をされてしまうこともよくある。次のケースを見てみよう。

【相談】先日、私は会社の広報誌のインタビューを受けました。私はインタビュアー(Q)の質問に対して次のように答えました。

Q:ご趣味は何ですか?
私:太極拳です。
Q:どれくらい長く続けていらっしゃるんですか?
私:そうですねえ。確か、震災のあった年に始めたので、九年になるかと思います。
Q:我が社の職場環境についての意見をお聞かせください。
私:社員がみな生き生きと働いているのが良いと思います。私の同僚の中にも結婚して子育てをしながら働いている人がいますが、会社の制度が充実しているので、仕事と家庭の両立がうまくできているようです。私は今独身ですが、もし将来結婚して子供を持ったとしても、この会社なら安心して仕事を続けられると思います。

後日、発行された広報誌の記事を見てみると、私のインタビューがこんなふうにまとめられていました。

「○○さんの趣味は太極拳。震災をきっかけに始めた。我が社の魅力は、社員たちが仕事と家庭をうまく両立しているところ。○○さんも早く結婚して、子供を育てながら仕事を続けたいという」

この中には私が言った覚えのないことが入っているのですが、なぜこうなってしまったのでしょうか? 記事を見た人たちからは「今、婚活中なの?」などと言われるし、いい迷惑です。