言っていないことを書かないためのテスト

この記事には、相談者が言ってもいないことが少なくとも二つ書かれている。

一つ目は、「震災をきっかけに(太極拳を)始めた」という部分である。「~をきっかけに」という言葉は動機や理由を表すので、この部分を文字通りに解釈すれば、相談者が「震災を経験したために」太極拳を始めた、ということになる。しかしインタビューにおいて相談者が言ったのはあくまで「震災のあった年に始めた」ということで、このことは必ずしも「震災をきっかけに始めた」ことを意味しない。

ここで言う「意味しない」というのは「含意しない」ということである。

「文Aが文Bを含意する」というのは、文Aが本当だった場合、文Bも必ず本当になるということだ。「震災のあった年に太極拳を始めた」と「震災をきっかけに太極拳を始めた」について言えば、たとえ前者が本当であっても、後者は必ずしも本当にならない。このことは、次のテストによって示すことができる。

① 文Aと、文Bを否定したものをつなげた文を作る。
② ①の文に矛盾が生じるかどうかを判定する。矛盾が生じるようであれば「文Aは文Bの内容を含意している」ことになり、生じなければ含意していないことになる。

これを使って、相談者の言ったことと、記事に書かれた文の否定をつなげると、次のようになる。

◇相談者の言ったことと、記事に書かれた文の否定をつなげた文
「私は震災のあった年に太極拳を始めたが、震災をきっかけに太極拳を始めたわけではない」

もし相談者の言ったことが「震災をきっかけに始めた」という内容を含意しているのであれば、この文に矛盾が感じられるはずである。しかし実際には、ほとんど矛盾は感じられないはずだ。このことから、前者が後者を含意しているわけではないということが分かる。

相手に対する先入観があると勘違いしやすい

記事中の「○○さんも早く結婚して、子供を育てながら仕事を続けたいという」という部分にも同様の問題がある。インタビューで相談者は「私は今独身ですが、もし将来結婚して子供を持ったとしても、この会社なら安心して仕事を続けられると思います」と答えているが、これは必ずしも「早く結婚して、子供を育てながら仕事を続けたい」ということを含意しない。このことも、同じテストによって示すことができる。次のように、相談者の言ったことと記事に書かれた文の否定とをつなげたものは、とくに矛盾を感じさせない。

◇相談者の言ったことと、記事に書かれた文の否定をつなげた文
「私は、もし将来結婚して子供を持ったとしても、この会社なら安心して仕事を続けられると思うが、早く結婚して子供を育てながら仕事を続けたいわけではない」

赤ちゃんを膝に乗せてノートパソコンで仕事する女性
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このインタビュアーに限らず、私たちは他人の言うことを理解しようとするとき、たまに相手が言っていないこと(つまり、相手の言葉が含意していないこと)を勝手に付け加えてしまうことがある。中には悪意を持ってそういうことを故意に行う人もいるが、そのような意図がなくても、相手に対する先入観であるとか、相手の言葉から受けた勝手な印象を「相手が言ったこと」だと誤認して、そのまま言葉にしてしまうことはある。