夫の配慮があったからこそ義父母の介護もできた

知多さんは今も東北の地で、夫と建てた家にたった一人で暮らしている。

「義両親との同居が始まった2012年末からは、朝昼晩と4人分の食事の支度と片付けに追われる毎日でした。そのうえ田舎の本家ということもあり、親戚関係、義両親の友人知人、夫の友だちも遊びに来るので、ほぼ毎日のように10時や3時のお茶の用意も必要。その合い間に買い物に行こうとしていると、また突然の来客……。今振り返ると、この頃の私のストレスは最高潮でした。われながらよくやってたと思います」

義両親がデイサービスに通い始めると、週に2日は昼食の心配がなくなり、ずいぶん楽になった。

「食事のとき、義父はいつも『おいしい!』と褒めてくれました。やはり褒められるとうれしいものです。義母は汚れたリハパンを家でも老健でもあちこちに仕舞いこんで、それでも『自分のことは自分でできる!』と言い張るので困りました。つらいときは、誰かに聞いてもらうと少しラクになります。義両親の介護のことは夫に相談していましたが、愚痴をこぼす相手はもっぱら娘でした」

義弟や義妹たちは、義父母の介護そのものはノータッチだったが、夫が病気になってからは、送迎や農作業は快く手伝ってくれた。

知多さんと夫は、お互いにほどよい距離感を保ちつつ、信頼し合っていた様子がうかががえる。義母との関係も、順風満帆とは言えなかったかもしれないが、憎しみ合うほどでもなかったのは、知多さん自身の努力はもちろんだが、夫の配慮があってこそだと感じる。

夫の遺言「好きにしてくれ」、長男の嫁が思ったこと

2021年5月、娘に、夫が楽しみにしていた第2子が誕生。今回はコロナ禍ということもあり里帰りはしなかったが、知多さんのもとに「第1子にそっくりな男の子」の写真がLINEで届いた。

今、知多さんは介護をしているすべての人にこう伝えたいという。

「現在介護をしている方は、なるべく家に閉じこもってしまわずに、1日1回でもいいので、被介護者から離れて気分転換をする時間を作ってほしいです。近くを散歩するだけでもいいし、ウインドーショッピングでもいい。ご近所さんや友人とおしゃべりするだけでもいいと思います。私の場合、娘にはずいぶん助けられました。義両親と同居を始めてからというもの、大好きな趣味の時間が持てなかったので、落ち着いたらまずは、ステンドグラス制作やスポーツクラブ通いを再開したいと思います」

キリスト
写真=iStock.com/Jorisvo
※写真はイメージです

知多さんから清々しさを感じるのは、「その時々で、できることは精一杯してきた」ということが伝わってくるからだろう。

夫の遺言には、「清美と娘に任せる。好きにしてくれ」と書いてあった。だが知多さんには、長男の嫁として、お墓のことや田畑のことなど、解決すべき課題が山積みだ。しかししばらくは、最愛の夫を失った悲しみを癒やす時間になることだろう。

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