ブランドにも人格がある

ブランドを育てるときによく言われるのは、「ブランドは人間と同じ」ということです。人間と同じように、消費者と対話してコミュニケーションをとるし、出身国などの生まれ育ちが個性に反映されるし、いままで何をしてきたか、どういう立ち居振る舞いをしているか、どういう言動をとっているかなどにより、一個の人格と同じように判断されると言われています。

したがって消費者から好きになってもらうには、「ウソをつかない」「口先だけでなく、ちゃんと行動もする」というような、人から好かれる振る舞いが求められます。

特に外資の場合は、ブランドの設計をするときに「ブランドパーソナリティ」といって、キャラクターの性格を決めるようにブランドの性格も決めていきます。「アグレッシブで情熱的」とか「とてもやさしくて思いやりがある」など、人間になぞらえてブランドを形づくっていきます。そうやってブランドをつくり続けてきた結果、ブランドが長く愛されるためには、「社会的な役割を果たすのが大事だ」ということがわかってきました。

利益追求に走る企業は選ばれない時代

もちろん社会的な役割を果たしていれば、商品がすぐに売れるのかといえば、そんなことはありません。でもこれからの時代は、社会的な役割を放棄して利益追求に走る企業が消費者から選ばれなくなるのは間違いない。だから外資系企業はいち早くパーパス・ブランディングに取り組み始めているのです。

その点、SK-Ⅱの動画がうまく考えられているのは、視聴者が参加できる仕組みがきちんとつくられていることです。SK-Ⅱは「#changedestiny資金」を設立し、50万ドルを上限として、この動画が1回再生されるごとに1ドルを女性支援活動に寄付すると明言しています。

つまりブランドが人だとしたら、いいことを言う「口だけの人」ではなく、ちゃんと行動を起こしているところを見せなければならないのです。

担当が代わっても社長が代わってもブレないブランド

私も外資系企業に勤めていたのでよくわかりますが、外資はブランドの重要性をよく知っています。ブランドがしっかりしていたら、商品のラインはそこからいくらでも追加していけます。ブランドを育てるのは金のなる木を育てるようなもので、この先何十年と利益を生み出してくれる。だから大事に育てるのです。そしてそれが育つと、担当者が変わっても社長が変わってもブレない強さを獲得できます。

一方日本企業では新製品を開発するほうに重点が置かれ、ブランドの重要性がいまひとつ理解されてきませんでした。

しかしいまの若い世代は、新製品には簡単に手を出さず、定番ものしか買わなくなっています。親の世代は「新しいもの=改良が加えられたもの」と思っていますが、若い世代はある程度、質のいいものに囲まれて育ったので、新製品が出たからといって飛びついてくれません。むしろ長く愛されてきたものにリスペクトがある。

SK-Ⅱはこのような若い世代の意識の変化をとらえたからこそ、パーパス・ブランディングに力を入れているのでしょう。若い世代のユーザーをつかまえたら、この先何十年も顧客になってもらえる。ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を意識しているはずです。

同じ化粧品でも、これが口紅やファンデーションなどであれば、流行も追わなければならない。しかしSK-Ⅱはスキンケア製品のブランドなので、企業の変わらぬ姿勢をアピールしやすい。それに商品を継続して使ってもらわないと、結果も出ない。SK-Ⅱには、パーパス・ブランディングにぴったりの条件がそろっていたと言えるでしょう。

(構成=長山清子)
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