首都圏で中学受験をする子どもが増えている。プロ家庭教師集団名門指導会の西村則康さんは「親たちが中学受験をさせる背景には3つの不安があると言われる。だが、本当の理由は別にあるのではないか」と指摘する――。
文京シビックセンターが見える景色
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文京区では2人に1人が中学受験をしている

近年、首都圏の中学受験は増加傾向にある。首都圏の多くの私立学校が入試を行う2月1日の受験者数は、2020年にはついに4万人を超えた。新型コロナウイルスによる経済状況の悪化で、受験者数が減少すると予測された2021年度入試も、蓋を開けてみたら前年とほぼ変わらず4万1251人という結果になった(「入試状況はどう変化したか――私立中学受験状況」森上教育研究所)。

こう言うと、東京で子育てをするとなると、中学受験は避けられないと思ってしまう親がいるかもしれない。だが、地域差はある。例えば葛飾区や足立区、江戸川区といった東京東部では、私立・国立中学に進学する子どもは全体の約1割にとどまっている。ところが、港区、中央区になると全体の約4割、文京区においては約5割、すなわちクラスの2人に1人が中学受験をしていることになる。そういう地域では、幼稚園や保育園の送り迎えのときに、すでに中学受験の話題が出ているという。つまり、暮らす地域によって、中学受験をするか否かが決まってしまう傾向にある。

東京23区の国立・私立に進学した子どもの割合。東京都教育委員会「令和2年度公立学校統計調査報告書」をもとに編集部作成。
図表=プレジデントオンライン編集部作成
東京23区の国立・私立に進学した子どもの割合。東京都教育委員会「令和2年度公立学校統計調査報告書」をもとに編集部作成。

「○○中はいじめがあるらしい…」地元中学の悪い噂

では、なぜ今、首都圏では中学受験熱が高まっているのだろうか。理由をひと言でいえば、「先々の不安を回避するため」と感じている。親たちの不安は主に次の3つだ。

1つは「公立中学に対する不安」だ。

「○○中はいじめがあって、不登校の子も多いらしい」
「公立中学は部活に全員入らなければいけないらしく、しかもどの部活も練習が厳しいらしい」

など、地元中学の悪い噂を聞くと、「中学受験をさせた方がいいのではないか」と考えてしまう。しかも、地元中学の悪い噂は耳に入ってくるが、遠方の私立中学の悪い噂はなかなか入ってこない。そうすると「中学受験をさせたい」と考えるようになる。親世代が小学生だった頃も、「地元の中学が荒れている」「怖い先生がいる」といった理由で、中学受験をする家庭はあった。実際、その時代は公立中学が荒れていて、社会問題にもなった。ただ、今よりもそういった理由で受験をする家庭は少なかったと感じる。