中学受験の早期化が進んでいる。首都圏では中学受験塾の小学1年生クラスが満席となる地域もあるという。プロ家庭教師集団名門指導会の西村則康さんは「早期教育には反対だ。それよりも幼少期には自然と触れ合うことを優先したほうがいい」という――。
新一年生の女の子の後ろ姿と桜
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早期教育で間違った勉強法を学ぶリスク

近年、首都圏では中学受験者数が増加傾向にある。それに伴い、まわりよりも少しでも先にアドバンテージをとっておきたいと早期教育に走る親がいる。だが、私は受験のための早期教育には反対の姿勢を貫いている。なぜなら間違えた勉強のやり方が身についてしまう危険性があるからだ。

首都圏の教育熱心な家庭が集まるエリアでは、本来なら4年生からスタートする中学受験塾の小学1年生クラスがすでに満席だという。また、それ以前の幼児向けの算数教室も人気だ。しかし、幼児や低学年から受験に向けた勉強をさせてみたところで、あまり効果は望めない。

そういう塾では、子供の成長を無視して、小1の段階で2学年上のレベルの問題を解かせたりする。何度もくり返し学習をしていれば、スラスラ解けるようになるだろう。だが、形だけ丸暗記させても、理屈で理解できていなければ、ちょっと問題形式が変わっただけで、たちまちお手上げになってしまう。また、中学受験で求められる抽象的な思考は、10歳未満の子供に理解させるのは難しい。子供の成長に応じた学びがあることを忘れてはいけない。

フラッシュカードや速読には弊害もある

幼児向けの「右脳教育」にも、私は疑問を持つ。フラッシュカードや速読といったスピード重視のものは、特に注意が必要だ。

フラッシュカードで直感力は鍛えられるが、論理的に考える力は身につかない。長年、中学受験指導をしてきた中で感じるのは、幼児期にフラッシュカードをやっていた子は、中学受験でつまずく傾向があるということ。時間制限のある入試において、速く解けることは有利に感じるかもしれないが、速さを求めるばかりに「文章をきちんと読まない」「計算は速いけどミスも多い」などの弊害が生じてしまうのだ。

また、速読の成果を得られるのは大人に限る。部下が書いた報告書やレポートなど形式が決まったものなどを、ポイントをつかんで読むのには効果的だが、小説や文学などの込み入った文章を読むには、視線が早く動かせるだけでは、言語を選び取ることができないからだ。なんとなく分かった気になっているけれど、本質を理解することまではできない。このように、早期教育には弊害リスクがあることを知っておいてほしい。