オウム真理教の犯罪行為の原点は「嘘」
しかし、嘘が組織を破壊することもある。
オウム真理教の引き起こした事件については、これまで何度も言及してきたが、犯罪行為の原点には嘘があった。
彼らが最初についた嘘は、修行中に亡くなった信者の死を隠したことである。精神的におかしくなった信者の目を覚まさせるために、彼らはかなり乱暴な手段を用いた。修行はハードなもので、それがそうした対応に結びついたものと思われる。
しかし、事故死を隠したことで、そのことを知る信者が組織から抜けるのを許せなくなり、殺害した。そこから、オウム真理教の組織は数々の犯罪を犯すようになり、最後はサリンの撒布に行き着いた。それも組織を守るためだった。
「嘘」からは政治家と官僚の関係も見える
嘘は泥棒のはじまりどころではなかった。
組織が、そこに属するメンバーに嘘をつかせ、そのメンバーを守ることで組織を守ろうとすることと、組織全体が、あるいはその重要な一部が自分たちを守るために嘘をつくということには違いがあるわけだ。企業犯罪には、オウム真理教と類似したケースが多い。小さな嘘が、瞬く間に巨大な嘘に膨れ上がり、それを隠し通せなくなったことで、組織全体が破綻するのだ。もうそこでは、嘘も方便という言いわけなどまったく成り立たない。
政治学者の五百旗頭薫は、『〈嘘〉の政治史――生真面目な社会の不真面目な政治』(中公選書)のなかで、「必死の嘘」と「横着な嘘」とを区別している。組織を守るために身を挺してでも守る嘘が前者で、権力の座にある者がその場しのぎでつくのが後者である。たしかに、今述べてきたところからすれば、嘘には二つの種類があるのかもしれない。
必死の嘘は、最後まで隠し通さなければならない。そこに組織やそれに属する人間の命運がかかっているからだ。
横着な嘘は、適当なその場しのぎに過ぎないのだが、ときにはそれが必死の嘘に変化することがある。昨今の政治スキャンダルを見ていると、それを実感する。政治家がついた横着な嘘のせいで、官僚が必死の嘘をつかなければならなくなるのだ。そこに、政治家と官僚、政治と行政の複雑な関係が示されている。