家庭でのサポートは何をすればいい?
ここまでGIGAスクールのメリットを紹介してきたが、大きな環境変化には当然、心配な点もある。
文科省の今井課長は言う。
「子供たちがICTに接する機会は増えるので、ネット上に個人情報を出してはいけないことや誹謗中傷をしてはいけないことなど、情報モラル教育をしっかりしていかないといけません。学校においてもしっかりと取り組んでまいりますが、家庭でもお子様の安全を第一にインターネットやスマートフォンなどの使い方を話し合っていただければと思います」
視力への影響も心配される。
「学習者用デジタル教科書を使用するに当たってのガイドラインをつくっています。たとえば、画面との距離を30cm以上あけることや30分に1回は目を休憩させるなど、家庭でも留意いただければと思います」(度會課長補佐)
端末を使って学習すること自体を心配するのは、脳科学者で東北大学教授の川島隆太さんだ。
「私たちの研究では、端末使用時に前頭前野に抑制がかかることがわかっています(※3)。端末は動画や音声が使えるので、学習に興味を持たせることには長けているのです。でも、端末上で漢字練習をさせたり、計算させたりするようになった場合、学習内容が頭にしっかり残っていくのか疑わしいです」
文科省はデジタル教科書の普及を後押しするため、これまで設けられていた各教科などの授業時数の2分の1までという使用基準を撤廃する予定だ。
「使いたい先生が利用しやすいようにするための撤廃」(度會課長補佐)だが、ICTに積極的な先生がいれば2分の1を超えてデジタル教科書を使った授業を行うことも可能になる。
「親御さんはお子さんが学校で、どのように学習しているかをしっかり確認することが大事です。そして、デジタルの学習が多ければ、家庭でアナログな学習を補いましょう。脳科学でわかっていることは、紙のノートに書いたり、紙の本を読むときには前頭前野が活性化すること。空間情報(本のどのへんに書かれている、など)や触覚情報を使えるから、記憶に残りやすいんです。家に帰ったら、なるべくデジタル端末は触らせず、家族で読書を楽しんだりする時間をつくりましょう」(川島さん)
先述した学校の先生たちも、アナログ学習の大切さを口にしていた。
「授業でみんなの意見を共有することに端末を活用していますが、一人で考えをまとめるときには、ノートに書かせています。デジタルとアナログ、それぞれのいい面を利用していきたいです」(小川先生)
学校教育がデジタルに大きく舵を切った今、アナログとデジタルのバランスの最適解を学校と親が協力しながら探していくことが大切だ。
※1 国はSociety5.0として、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会と定義する。
※2 https://oetc.jp/ict/studxstyle/
※3「齟齬(そご)」や「鷹揚(おうよう)」など、読めるけれど意味を説明するのが難しい言葉について、紙の辞書とスマホでの検索を行い脳の活動を調べた。前者は活性化したが、後者は抑制されていた。LINEなどのメッセージアプリのやりとりでも同様に前頭前野の抑制がみられた。
整備される端末とソフト一覧
端末は、クラウド活用(端末上ではなくインターネット上にあるソフトを使ったり、データを蓄積したりする)を前提にWindows(マイクロソフト)、iPadOS(アップル)、ChromeOS(グーグル)の3つのOSが標準仕様例として示されている。各OSでは教育用に無償で学習用ツールが提供されている(下記参照)。これらを授業で使えるようになった。