コロナ禍で働き方が大きく変わった。産業医の武神健之氏は「コロナ禍で会社が決定した働き方に対して、必ずしも納得していない人が多い。そうした不満はいちはやく解決しないと、人材流出リスクが高まる」という――。
都市部の横断歩道を渡る大勢の通勤者
写真=AFP/時事通信フォト
2021年4月26日、新型コロナ/3度目の緊急事態宣言発令後の出勤風景

在宅勤務などの方針決定に、文句や不満を言う人が必ずいる

コロナ禍2回目の新年度が始まっています。

私は産業医として、2020年は1250人の働く人と面談をしてきました。そしてもちろん、会社の人事担当者からもたくさんの相談を受けました。今回は、頻度の多かった人事の相談内容から、新常態の中で、会社がどのように変わっていくべきかについて解説したいと思います。

人事から一番多く寄せられた相談内容は、在宅勤務や出社などの方針決定をすると必ず文句や不満を言いにくる人がいるというものでした。

これを解決することはなかなか難しいと思われます。私がコロナ禍の産業医面談を通じて再認識したことは、同じ会社、同じ部署でも、同居人や家族構成、住まいの場所や広さ、通勤時間等により、不満や不安など、ストレスの原因は本当にさまざまだということだからです。

リモートワークの環境が整えられている会社でも、在宅勤務の閉塞感や運動不足をストレスに感じる人もいる一方、自宅で集中できることや通勤時間がない分、趣味や自己投資の時間が増えたと喜ぶ人もいました。また、販売系の業務で自宅では仕事ができないにもかかわらず出社することを求める会社を批判する人がいる一方、出社することで給与がなくなる不安が解消されると喜ぶ人もいました。

会社に対する帰属感が変化している

会社の方針に不満がある場合、その矛先は人事部に行くことが多いようです。会社の判断に対する批判や不満、コロナ禍の不安、やり場のないストレスなど、いろいろな声を聞かされてきたと多くの人事たちから聞きました。

その人事担当者ですら、コロナ禍で会社が決定した働き方に対して、必ずしも納得していない場合もあり、彼らがメンタルヘルス不調にならないか心配になりました。

次に多かった、そして産業医的により大切と感じる相談は、昨年後半から増えた内容でした。

それは、出社しない働き方に不満や不安を感じていない社員たちの、会社へのエンゲージメントの変化を心配する相談です。

エンゲージメントとは、「仕事に対するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる。特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である」(ウィキペディアより)とあります。私なりに解釈すると「仕事や会社に対する帰属感、連帯感、充実感」からなる気持ちでしょう。