世界中から注目を集める若き天才哲学者マルクス・ガブリエルは、コロナ禍にすべてのソーシャルメディアのアカウントを削除したという。それはなぜなのか。彼は「私たちはSNSを楽しんでいると思っているが、実際には窒息している」という――。

※本稿は、マルクス・ガブリエル著、大野和基インタビュー・編、髙田亜樹訳『つながり過ぎた世界の先に』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

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写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn
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SNSが民主主義を破壊する

私は以前から、「人はソーシャルメディアなどの米国製品を消費しながら楽しんでいると思っているが、実際には窒息している」と述べています。

消費者行動を操作するソーシャルメディアのアルゴリズムは、基本的にわれわれを他人と対抗させる機能を持っています。インスタグラムやツイッターなどのプラットフォームには、それぞれできることとできないことを規定する枠組みがありますが、この枠組みが人の行動を変化させているのです。

簡単な例を挙げましょう。

グーグルのサーチエンジンは、「ダックダックゴー(DuckDuckGo)」とは違って、人が検索したくないものを、無理に検索させる機能を持っています。ダックダックゴーは完全にプライバシーを重んじるサーチエンジンです。ダックダックゴーでは探したいものを探すだけですが、グーグルとダックダックゴーの違いはAIです。グーグルは個人の検索行動を利用してその人の行動を操作し、より長い時間、オンラインに止まらせようとするのです。

この点はすべてのソーシャルメディアに共通しています。

似たような技術を用いてユーザーを分極化し、できるだけ彼らがオンラインに止まる時間を延ばそうとしているのです。トークショーのような伝統的なメディアでは討論が必要です。トークショーも人と人を対抗させるという意味では似たようなロジックを用いていますが、異なる意見を視聴者に提示した上で合意点を求めて論争を解決しようとする倫理的側面があります。ですからトークショーで私を侮辱する人がいたら、その人を訴えることもできます。

一方、アメリカのソーシャルメディアでは、このような組織的制御がまったく機能しないのです。

ネット上で誰かに中傷されても自己防衛のすべがありません。それはとりわけソーシャルメディアを過剰に使用している若者たちに深刻な影響を及ぼします。端的にいうと、アメリカのソーシャルメディアは自由民主主義を弱体化させる危険なドラッグなのです。自由民主主義の失墜とソーシャルメディアの台頭には相関関係があるだけでなく、ソーシャルメディアが民主主義の破滅をもたらす主因だと思っています。