「トランプ現象」とは何だったのか。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹で宮家邦彦さんは「アメリカの白人・男性・低学歴・ブルーカラーが抱える怒りと不信であり、社会の『影』の部分に溜まるマグマが噴出し始めた結果だ。この現象は今後、世界中に拡散していくだろう」という――。

※本稿は、宮家邦彦『劣化する民主主義』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

ドナルド・トランプ
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「ダークサイド」を代弁する政治家

今年1月、「Qアノン」などの過激な陰謀論を盲信するトランプ主義者の群衆がワシントンの連邦議会議事堂を襲撃した。トランプ氏の反中姿勢を評価していた人も、ホワイトハウス、最高裁判所と並ぶアメリカ民主主義の「聖域」で起きた暴力行為の記録ビデオを見て、トランプ氏に対する評価を変えたのではないか。

たしかに、議事堂襲撃事件で「トランプ運動」は政治的エネルギーを失ったかもしれない。だが、米国社会の「内向き傾向」と国内政治の「劣化」は今後も続く可能性が高いだろう。日本や欧州の同盟国にとっても、厳しい試練が続くことを意味する。

「トランプ現象」を分析するなかで、筆者が思い付いた言葉が「ダークサイド」だ。ところが、何と映画『スター・ウォーズ』ですでに使われていた。「フォースのライトサイド」を代表する「ジェダイ」の宿敵が「ダークサイド」であり、ダークサイドの使用者は「恐れ、怒り、憎しみ、攻撃性といった暗い感情から力を引き出す」のだという。まさに「トランプ現象」そのものではないか。

トランプ旋風は米共和党内だけの現象ではない。理由は、彼がアメリカ社会の「ダークサイド」を代弁する政治家だからだ。

トランプ支持者の中核は「白人・男性・低学歴・ブルーカラー」である。トランプ現象の原因は彼らの現状(とワシントン)に対する怒りと不信であり、社会の「影」の部分に溜まるマグマが噴出し始めた結果に過ぎない。