投資家の金離れはきわめて近視眼的である
しかし、投資家はそこまで頭が回っていないようである。彼らは常に近視眼的であり、目先の材料で行動する。それが正しいことも少なくないが、こと金に関しては、それは正しくないといえそうである。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、金ETF(上場投資信託)の2月の保有高が前月から84.7トン(46億ドル相当)減少した。債券利回りの上昇によって、投資家の金への関心が後退したのである。
新型コロナウイルス危機の中、投資家が安全資産としての金の保有を増やすなどしたため、金ETFは急速に拡大した。低金利によって、保有していても金利が付かない金の投資妙味も大きくなり、金相場は昨年8月に過去最高値の2072.50ドルに到達した。
しかし、その後は、経済回復への期待の高まりと米国債の利回り上昇を背景に下落した。2月末時点の金ETF保有高は3681トン(2070億ドル相当)だった。このように、投資家は金離れを加速させているが、このような行動は、目先の金利上昇を背景とした、きわめて近視眼的な判断に基づくものであろう。
米大型経済対策で現金の多くは株式に投資されたが…
また、ドイツ銀行の調査によると、米大型経済対策に盛り込まれたひとり最大1400ドルの現金給付について、37%が株式投資に使用されるとの結果が出たようである。株式市場への流入見込み額は1700億ドルに達するという。
18-24歳の40%、25-34歳の50%、35-54歳の37%が給付金を株式投資に使用すると回答した。実際、昨年12月の対策で盛り込まれた給付金は、半数以上の個人投資家が、一部を株式投資に振り向けたと回答している。さらに、若い世代ほど積極的に投資に使用しているという。
トランプ前政権は昨年12月の追加経済対策で1人最大600ドルの現金給付を実施したが、その多くが株式に向かったわけである。そして、今回のバイデン大統領が打ち出した総額1兆9000億ドル規模の大型経済対策でも、株式に資金が向かいそうである。
戦争を知らない世代がそのような行動をとるのは、仕方がないだろう。しかし、将来のインフレに関して全く考えていないのであれば、それは危険だ。彼らこそ、資金のいくらかでも金に投資すべき世代である。しかし、彼らは値上がりするものにしか興味はない。それは、暗号資産の上昇でも証明されているといえるだろう。
将来に何が起きるかは、誰にもわからない。しかし、だからこそ想定される最大リスクを念頭に置くべきであろう。実物資産である金が最終的に選好されるときが必ず来る。インフレになってからでは金投資は遅すぎることを、いまから肝に銘じておくべきだ。